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ポルト泣く

小説の舞台はチェコとオーストリアの国境沿いの町ブルンドルフ。このワインの産地で、肉づきがよく物静かな独身男のジモン・ポルトは巡査部長として働いている。

ここのワインケラーである夏の終わりに人が死ぬ。ワインが発酵する時に出る炭酸ガス(つまり二酸化炭素)に気づかず、ワインケラーに降りて昏倒してしまったのだ。しかし村中の鼻つまみ者だったこの男の死を悼む者は誰一人としていない。死因と男を取り巻く事情に不審を抱いたポルトはそれとなく聞き込みを続けていくが、その途中で事故への曖昧な疑念が徐々に確信へと変わっていく。男は殺されたに違いない。しかし一体誰に?

これはオーストリアの現代作家、アルフレッド・コーマレックの『ポルト巡査部長シリーズ』の第一作で、1999年にはグラウザー賞を受賞した。ポルトシリーズの人気は高く、これまで(確か)3作までがORFでドラマ化された。私はそのうちの最新作しか見ていないが、オーストリアらしく地味でのんびりした作品に仕上がっている。めまぐるしい展開や派手なアクションなどは皆無なので、多少退屈に感じたことも確かだが。しかし村の風俗や風景は上手に視覚化されていて、どことなく郷愁感を誘われもした。

さて肝心の小説のほうであるが、推理小説としてはかなり大味で単純である。大きな仕掛けやどんでん返しがあるわけでもなく、終盤に入るとあっさり犯人が明らかにされてしまう。しかしドラマ同様、オーストリアののんびりした田舎の様子が丹念に美しく描かれていて、それが読者の郷愁を大いにそそる。純朴なポルトと村人たちの交流も、静けさと優しさの中で淡々と描かれている。
だがこの本のいいところは単なる田舎礼賛で終わっていないことだ。殺された男のアルベルト・ハーンは貪欲で冷酷で、人の弱みや失敗につけ込んで財をなしてきた。さらにそれだけでなく、彼は他人を弄び苛むことに無上の喜びを感じる歪んだサディストでもあった。ハーンの過去を探るにつれ、ポルトは人間の弱さや残虐さに直面して大いに戸惑う。戸惑いながらも少しずつ真実に近づいていき、最後は題の通り泣くのである。

さすがは田舎なのか何なのか、ポルトの捜査方法もかなり淡々としたものだ。つまり自分のワイン仲間を訪ねては共にワインを飲み、少しずつ話を聞いて手がかりを集めて行くだけ。
その最中にポルトが勤務中にもワインを飲んだり、平気で飲酒運転したりというくだりには何度か驚かされた。オーストリアでは血中アルコール度が0.5%までなら車を運転してもいいのだが、勤務中の警察官の飲酒運転はさすがに禁止だろう……。しかし先祖代々ワイン農家を営んでいる人々なら遺伝的にアルコール分解酵素を体内多く持っているだろうから、1杯2杯のワインをひっかけたくらいじゃ屁でもないのかも。きっとオーストリアのワインやビールの産地では、警察官も少しなら飲酒運転してよいというローカルルールがあるのだろうと、ポルト弁護のために勝手に推察してみたが、いかがなものか。

少しばかり残念だったのは、小説内の会話がほとんど全て標準語で交わされていたこと。これで田舎の雰囲気がいくらかそがれてしまった感じがした。会話の解読が難しいほどのべらんめぇ調で話をさせろとは言わないが、せめて語尾を少しその地の訛りに習って省略するとか変えるとかすると、もう少し別の田舎らしさが効果的に演出されたのではないかなと思った。
ドラマのほうは全くの方言ドイツ語であった。こういうところで、ドイツ語における書き言葉と話し言葉の明確で強力な境界というものを感じたりもする。

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原題: Polt muß weinen
著者: Alfred Komarek (アルフレッド・コーマレック)
出版年: 1998

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