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ポルトの夕べ

ポルトシリーズの最新作である。
前作『天国、地獄とポルト』の感想で「たまには冬景色のブルンドルフも見てみたい」などと書いたが、著者のコーマレックが私のそんな考えを読んでくれたかのように、今回はクリスマス直前から話が始まる。しかしその始まり方がまたニクイ。アイスワイン(貴腐ワイン)用のぶどうを、ポルトとその友人たちが真冬の明け方に収穫するシーンから始まるのだ。そうか、その場合は冬にワインを仕込むこともあり得るわけだ、と私は唸ってしまった。
アイスワインとは、冬まで摘み残されたぶどうを、マイナス8度以下の寒さの中で収穫し、氷結したままのぶどうから醸造されるワインである。果汁の氷点は水より低いためぶどうの甘いエキスだけが絞られ、余計な水分は氷として残る。従って甘い甘いワインが出来あがるのである。

このアイスワインの醸造が始まると、白いワイン用のぶどうだけが入っているはずの樽の中から何やら赤い液体が上がってきた。圧搾機をどけて中を覗いてみたポルトは、そこに潰れた男の死体を発見する。
後に、この男は町でふらふらと遊び暮らしていたルッツァーだと判明するのだが、一体誰が何のためにワイン桶に死体を突っ込んだのか?桶と醸造所の持ち主で、町一番のワイン名人、フュルンクランツに対する嫌がらせか?それともフュルンクランツ自身が一枚噛んでいるのか?様々な疑問を抱きながら、ポルトはまたまた捜査を開始する……。

正直言って、コーマレックの調子がいくらか落ちてきたかなという印象を受けたシリーズ4冊目であった。これまでのように、話のアクセントとなり、ポルトと面白くからむ登場人物がこのたびは見当たらないのがまず物足りない。これまでは暗くなりがちだったストーリーがそのトリックスター的な脇役によって救われていた面があったのだが、今回は何もかもが暗い。その上季節が冬なので、もっと暗い。さらにポルトとカーリンの関係も危機に見舞われ、ポルトの理解ある上司で友人のハラルド・マンクが栄転して別の町に異動となり、代わりに田舎生活の機微について何も知らない官僚主義的上司が新しくやって来てポルトを苦しめる。もう踏んだり蹴ったりである。

事件の顛末はというと、こちらは1冊目の『ポルト泣く』の展開に近い。矢印がぐるっと一周して元の地点に戻ってくるような終わり方である。両編ともワインの醸造所で事件が始まり、結局のところ醸造所の持ち主が犯人だが、ポルトは真犯人を逮捕しない。(1作目ではこの部分が少し違うが。)ユーモラスな脇役に欠けるところも同じである。
また今回はその他の不可解な小事件や謎めいた脇役たちが、本筋にうまいことからんでいない印象を受けた。どうも展開が不自然なような、どこかに無理があるような印象をぬぐえないのである。

さらに、この事件を解決した後ポルトは唐突に警察を辞めてしまうのだ!!新しい上司に嫌気が差したのかもしれないが、新上司赴任直後のことである。そんなに短気なことでいいのだろうか。また恋人のカーリンも職場(小学校)で大失敗をやらかし、教師としてやっていけるのかどうか悩む。
ポルトはこれからワインを作っていきたいようだが、次回からはワイン農夫ポルトの事件簿が始まるのだろうか?今回はこれまでの警察官ポルトシリーズに区切りをつける上で、著者のコーマレックが1作目と似た筋立ての小説を書いたのかもしれないが、一体この先どうなるのか。ポルトファンとしては非常に心配である。カーリンも教師の職を辞してポルトを手伝うのだろうか?

書き忘れていたが、題の『ポルトの夕べ (Polterabend / ポルターアーベント)』というのはかけことばになっている。これを「ポルトの夕べ」と読んでもいいのだが、その他に「結婚前夜」という意味もある。元々 “poltern” という動詞には「どんどん、だんだん音をたてる」などという意味がある。(ここから派生したポルターガイストは直訳すれば「うるさい幽霊」ということである。)結婚前夜には悪魔や不幸を追い払うために食器を割ったりして大騒ぎする風習があり、これがポルターアーベントと呼ばれているのだ。
ただ、本の内容とこのポルターアーベントは多少牽強付会気味につなげられている気がしたので、これを題とするには少し無理があるかなと思ったりした。

補足:
ポルトシリーズは実はこの『ポルトの夕べ』で終わりなのだそうである。もうガッカリ。次回作を楽しみにしてたのに、こんな中途半端な終わり方をするなんて……。

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原題: Polterabend
著者: Alfred Komarek (アルフレッド・コーマレック)
出版年: 2003

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