HOME > 書評目次 > ウィーン料理、千年の歴史 ‖ 読書の記録

ウィーン料理、千年の歴史

まずいくつかのクイズから。

上記のクイズの答えがわからない人はこの本を読んでみるべし。(残念なことに日本語には訳されていないが。)

これは長年ジャーナリストとして活躍してきた著者のバッコスが、ウィーンの料理の歴史についてまとめた本で、料理だけではなく食にまつわる様々なテーマ(市場、スープ、軽食、菓子、酒、おやつ……)について、歴史的エピソードを交えて詳述してある。
時々話が食を超えて政治や歴史にも脱線していくが、それがまた興味深い。人の胃袋を満たしてくれる料理がどれほど社会に影響を与えたか、逆に社会の変化が料理をどのように発展させたのか、バッコスはそれをわかりやすく説明する。また彼女は、ありきたりの料理や食材に隠された驚くようなエピソードや忘れられた歴史についてもあますところなく語ってくれるのだ。

例えばウィーンナーソーセージはウィーンで『フランクフルトソーセージ』として売られている。これは、フランクフルトからウィーンに移住してきたラーナーという肉屋が19世紀初頭にこのソーセージを発明したからなのだ。彼は元々フランクフルトで食されていたソーセージの材料に工夫を凝らし、改良して売りに出したのだが、これが大当たりした。それが世界中に(フランクフルトにも)『ウィーンナーソーセージ』として広まったわけだが、その後もウィーンのラーナーは自分が発明したソーセージの本家本元に敬意を表してこれを『フランクフルトソーセージ』として売り続けたのである。そのため、以来ウィーンのウィンナーソーセージは今でもフランクフルトソーセージなのだ。

それからザッハとデーメルがザッハトルテという名前をめぐって訴訟まで起こしたことは有名だが、この争いには結局ザッハが勝利し、デーメルはザッハトルテを『デーメルのザッハトルテ』として販売している。晴れて「オリジナル」と称することができるようになったザッハは、その証(?)にザッハトルテには欠かせないアンズジャムをチョコレートコーティングのすぐ下に塗っていると公言している。対するデーメルはジャムをトルテの真中に塗っている。これが味にどういう違いをもたらすのかは定かでないが、ウィーンでは今でもどちらのザッハトルテが優れているか、意見が真っ二つに分かれているのである。

またウィーン人1人当たりにおけるビールの年間消費量は意外と低く、74Lである。174Lも飲むのはチロルっ子だそうだ。それよりもウィーン人はワインを愛飲するので、ビールの消費量が低めなのだ。数多くあったウィーンのビール醸造所は現在ひとつしか残っていないが、ワイン畑のほうは今でもウィーンのあちこちに見られる。このこともウィーン人のワイン好きを裏付けているのかもしれない。(市内のワイン畑の総面積は720ヘクタールに及ぶ。)

他にも紹介したいエピソードはいくらでもあるのだが、きりがないのでここまでにしておく。しかしそういったエピソードや料理の歴史といった記述の他にも、幅広いウィーン料理のレシピが上記のザッハトルテから肉団子スープからクレープまで数多く記載されている。
そんなわけで本書は料理について読むだけでなく、実際にウィーン料理を作ってみたい人にもお薦めの一冊である。

最後に、原題を直訳すると『アゴの御馳走と魂の食事』と、日本語では意味不明の文字の羅列になってしまうので、副題(『ウィーンの台所の千年』)をアレンジして『ウィーン料理、千年の歴史』とした。これも芸のない訳だなと思うが、所詮は仮題なのでよしとする。

アマゾン.de へ: Gaumenschmaus und Seelenfutter

原題: Gaumenschmaus und Seelenfutter
著者: Eva Bakos (エファ・バッコス)
出版年: 1996

HOME > 書評目次 > ウィーン料理、千年の歴史 ‖ 読書の記録
────────────────
(C) Hana 2003 ウィーン今昔物語