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約束

これはスイスを代表する作家、デュレンマット (1921-1990) による推理小説である。
この作品は映画のために書き下ろされた(『それはある晴れた日に起こった / Es geschah am hellichten Tag)』1958)。映画のテーマは子供に対する性犯罪というもので、周囲の安全さに油断して子供から目を離してしまう親への警告もこめてデュレンマットはこの本を書いたという。後にデュレンマットは原作を書き直し、それがこの『約束』として1958年に出版された。

本の主人公マットイは50代の経験豊かで有能な刑事で、ヨルダンへ顧問刑事として派遣されようとしているところだった。だがある日チューリッヒ近くの村で、剃刀で切り刻まれた少女の死体が見つかる。第一発見者は性犯罪歴のある行商人で、彼はすぐさま殺人事件の容疑者として警察に拘留される。過去にも2回ほど同じような事件があり、これもこの行商人の仕業だろうと考えられた。
マットイは少女の両親に不幸を伝えた際に、必ず犯人を逮捕することを約束させられる。容疑者は最初頑固に犯行を否認していたものの、20時間にも及ぶ尋問に音をあげて犯行を認める。しかしその直後に首を吊って死んでしまう。
どうもこの一連の経過に納得のいかないマットイは職を投げ出し、個人で真犯人を捕まえるための囮捜査を始める。約束を果たすために、殺された少女と同じような少女を持つ母親を家政婦として雇い、ガソリンスタンドを経営しながら気長に犯人を待ちつづけるマットイ。ある日ついにその少女にも犯人の手が及んだように見えたが……。

これはマットイの上司であった警部が、「現実の犯罪は小説の中でのように綺麗に解決したりしない」という例をある推理小説作家に語る形で、マットイの話が語られていく。(そういう主張を警部にさせながらも、実はフィクションを語っているデュレンマットは自分の話の信憑性に余程の自信を抱いていたということなのだろうか?)
信憑性はどうであれ、最初から不幸な結末は見えているのだが、それがどういう形で終わるのか読者には予想のつかない展開が面白い。またつまらない偶然で人生を狂わされていく人間たちのエゴイズムとそれぞれの悲劇もよく書けていて、本を読み終わった後にはあれこれ考え込んでしまった。

この小説の犯人は最後になるまで舞台に出て来ないので、厳密に言うとこれは推理小説のカテゴリーに当てはまらない(推理小説の要素は十分にあるのだが)。ただ自分の情熱とある行き違いに人生を狂わされた男の末路が苦く語られ、そこにデュレンマットの描きたかった(と思われる)リアリズムが滲み出ている。

最近知ったのだが、この『約束』はジャック・ニコルソン主演でも映画化されていた。『プレッジ』(2001)というタイトルの映画で、監督はショーン・ペン。中々の秀作である。
ただ、映画では主人公の刑事のエゴイズムがだいぶ薄めて書かれていた分、結末がもっと救いようがないものになってしまったような。尤も、結末を知っていた私はこの映画がテレビで放映された時途中までしか見ないで止めてしまったのだが。(ジャック・ニコルソン演じるジェリーが気の毒で見ていられなかったので。)
それが原作と映画の大きな違いだが、あとは大体原作に忠実に撮られていた映画だと思う。しかしショーン・ペンはこういう暗い映画を撮るのが上手いですな。
[2004/04/18 改]

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原題: Das Versprechen
著者: Friedrich Dürrenmatt (フリードリッヒ・デュレンマット)
出版年: 1958

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