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ウィーンの内部への旅―死に憑かれた都

本書はオーストリア現代文学を代表する作家の1人、ゲルハルト・ロートが知られざるウィーンの姿や歴史について書き記しているエッセイである。時には暗く重苦しい出来事についても、あくまで淡々と静かに語られるので、それが時にある種の不気味さを醸し出して読む者を本に惹き込む。
この本は全部で9章から成り、各章の内容は次のようなもの。

1. 帝室王室特許動物闘技場:
18世紀にウィーンに実在した動物闘技場についての話。

2. 第二の都市:
ウィーンの地下に存在し、一般には知られていない巨大な空間について。これは地下墓所や緊急事態のための弾薬庫として使われたが、今では美術館の物置や図書館の蔵書スペース、観光アトラクション(?)などに使用されている。

3. 眠れる理性の家:
精神を病んだ芸術家のための療養所、グッギンクについて。

4. レオポルトシュタット・レクイエム:
ウィーンの2区、1938年の時点で住民の半分がユダヤ人だったというレオポルトシュタットをロートが散策しながら、過去に思いをはせる。

5. 灰色の館:
1839年に建設され、現在に至るまで使われている裁判所兼刑務所兼元処刑場について。中は迷宮のように入り組んでいるらしい。別名は可愛らしくリーズル。

6. 『ヒトラー・ヴィラ』:
ヒットラーが1909年から1913年までのウィーン滞在中に利用していたホームレスのための宿泊施設とそこの住民の現在について。ヴィラとは屋敷や別荘という意味。

7. 愚者の塔:
総合病院跡地に立ち、元は精神を病んでいた患者を収容する療養所だった塔について。(なので個人的に「愚者」は誤訳ではないかと思うのだが。私はズバリ「気狂い塔」と訳してしまった。)現在ここは解剖博物館として開放されている。

8. シュテファン大聖堂:
知られざるシュテファン寺院とハプスブルク家の歴史について。

9. 軍事歴史博物館の中で:
軍事博物館の展示物を見て回るロートが、オーストリアの軍隊や戦争の歴史について語る。本書の中ではこれが一番長くて読みごたえがある章だと思う。

この本に収められているエッセイ自体が3誌くらいの雑誌に不定期に掲載されたものだということもあって、全てのエッセイが必ずしも死や歴史などに関連しているわけではない。それなのに日本語訳の副題が『死に憑かれた都』というのはどんなものかと疑問に思ってしまう。人目を惹く題ではあるが、「死にまつわるウィーン」を期待して本を読み始めた読者が死とは直接関係のないユダヤ人地区や精神病患者のための療養所などの章を読んだら失望するのでは?
などと思っていたらペーパーバックの裏表紙にも、ある書評の抜粋として「ロートは集合意識の死の帝国を見て回っている。フロイトを背負い、集団ノイローゼとして抑圧された黄泉の世界を歩き回るのだ」なんてわかったようなわからんようなことが書いてある。それもなんだかな。

本書のエッセイは、歴史的エッセイと主に現在を描いているエッセイに二分できると思う。
現在を描いているものは2〜6章で、残りが歴史エッセイ。前者において著者のロートは過去の延長線上に位置する現在のウィーンを描写したかったように思える。勿論過去の歴史について語られることもあるが、主眼は今生きている人間の営みに置かれている。また歴史エッセイにおいても、ロートは現在の人間に昔の様子を直接語らせる手法をよく使う。それによって見たことのない建物やこれまで知らなかったエピソードに現実的なイメージが付与されてくる。
それからロートは一般人に立ち入り禁止とされている場にも入り込んでその様子を細かに描写してくれるので、そういう意味では『第二の都市』、『灰色の館』、『愚者の塔』、『シュテファン大聖堂』あたりを面白く読むことができた。

ただ細かいことに延々と長ったらしい講釈が続いたりして、読んでいるこっちが飽き飽きしてくることも時々あった。また各章のテーマにもばらつきがあるので、全部を読み通そうとするよりは、自分の興味の持てそうな章から順に読んでいったほうがいいかもしれない。
読んでいてつまらんなぁと思った章もいくつかあったもので。

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原題: Eine Reise in das Innere von Wien
著者: Gerhard Roth (ゲルハルト・ロート)
出版年: 1991
日本語版
翻訳者: 須永 恒雄
出版社: 彩流社

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(C) Hana 2003 ウィーン今昔物語