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吟遊詩人ベアトリッツ

原題は無駄に長い。直訳すると『詩人ラウラが語る吟遊詩人ベアトリッツの生と冒険』となる。これは日本では全く無名だが、東独を代表する現代女流作家のモルグナー(1933−1990)による長編ロマンである。この本を書き上げた後、1975年に彼女は東独文学の権威であるハインリッヒ・マン賞も受賞する。
本書はザルマンシリーズの1作目で、後に出版される『アマンダ、魔女の物語 (Amanda. Ein Hexenroman/1983)』と未完に終わった『英雄的遺言 (Das heroische Testament/1998)』と共に3部作を成している。

主人公のベアトリッツは中世南フランスに実在した(と考えられている)歴史上唯一の女性吟遊詩人である。彼女の手による(とされている)詩も、現在まで4編ほど残っている。
小説内でこのベアトリッツは中世の女性の惨めな状況に悲観し、来るべき男女平等の世界に生きようと何百年もの長い眠りにつく。そして800年も昏々と眠り続けた後現代に甦り、相も変わらず女性を差別し続ける故郷フランスを後にして女性のユートピアであると伝え聞いた東ドイツへと向かう。しかし東ドイツも完璧な国ではなかった。そこで深く失望するベアトリッツだが、シングルマザーのラウラ・ザルマンに出会っていくらか慰められる。その後も旅を続けてまたラウラの元へと戻って来るベアトリッツだが、旅の途中で東ドイツが女性解放については一番進んでいる国であることを認識する。そして現実に向かい、ラウラと同じように働きながら生きていこうとする。ところがある日、ベアトリッツは窓を拭いている最中に足を滑らせて落下し、死んでしまう。

要約だけではわからないだろうが、これは革新的フェミニズム文学なのである。どこが革新的かと言うと、本の構成が滅茶苦茶だというところ。小説のストーリーは上に書いたようなものだが、それに中途半端なメルヘンやら妙な細切れ小説やら架空の新聞記事やら神話やら伝説やら古典文学からの引用やらがごっちゃごちゃに挿入される。そして話の途中で脈絡もなく関係のない話が始まり、途中で終わる。その繰り返し。この本の中には私のような平凡な読者にはついて行けない極めて前衛的な世界が展開されているのだ。そんな混乱した世界がペーパーバック本で延々700ページにも渡って続く。
そんなわけでこれは、勇者か真の文学者向けの本である。

私が数年前にこの本を読んだ時には、本の内容が理解できずに非常なストレスを感じた。今ならその当時より語学力もアップしたのでもう少しこの作品のよさを理解できるのかもしれないが、これは「今はよくわからなくても後になってもう一度読みたいな」と思えるような種類の本ではない。従って本書はおろか、モルグナーの著作を私が読むことは今後2度とないと思われる。もうこりごり。

しかし本の内容がある意味あまりに強烈だったので、これが私の思い出の一冊になってしまったのは運命の皮肉である。

アマゾン.jp へ: The The Life and Adventures of Trobadora Beatrice As Chronicled by Her Minstrel Laura (英)
アマゾン.de へ: Leben und Abenteuer der Trobadora Beatriz nach Zeugnissen ihrer Spielfrau Laura (独)

原題: Leben und Abenteuer der Trobadora Beatriz nach Zeugnissen ihrer Spielfrau Laura
著者: Irmtraud Morgner (イルムトラウト・モルグナー)
出版年: 1974

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