HOME > 書評目次 > 鴉兄弟 ‖ 読書の記録

鴉兄弟

本書は、これまでここで紹介してきた『特技は殺人』と『女薬剤師』の作者ノルの最新作である。
鴉(カラス)は子供たちがある程度成長すると、それを巣から追い払ってしまう。そこで、親が冷酷であることをドイツ語で鴉に喩えて「鴉の母(=鬼のような母)」や「鴉親(=愛情のない親)」、逆に親に冷たい子供を「鴉娘」や「鴉息子」と言ったりする。この本の題もそこからきていて、主人公はとある兄弟である。主題は家族。

兄はジャン=パウル、弟はアヒムというこの兄弟は、2人ともとっくに成人している。兄のパウルは弁護士の職に就きキャリアウーマンの妻と結婚し、一応社会的には成功したことになっているが、財政的に行きづまり、妻との関係に飽きて浮気を始め、弁護士業では専ら国選弁護人ばかり引き受け、その実あまり冴えない状況にある。
一方弟のアヒムは大学を中退し、車のセールスマンをしたりしながらいい加減な生活を送っている。そんなアヒムとパウルの関係は微妙で、2人とも両親が自分ではなく相手を愛していたと信じ込んでいる。特に今でも美しく若い母を巡るライバル意識は熾烈で、ある日パウルはアヒムから、一度だけアヒムと母が肉体関係を持ったことがあると聞かされる。以来家族全員と距離を置いていたパウルだが、父が卒中で倒れたことをきっかけにまた実家へと足を向ける。そこでパウルは偶然に、母が自分と同じくらいの年の男と不倫の関係にあることを知り……。

この本は、これまで私が読んできたノルの作品の中では一番の出来だと思う。登場人物の誰もが多かれ少なかれ病んでいるので(まともなのはパウルの妻のアネッテだけである)、話がどこへどう進んでいくのか全く見当がつかない。ノルは一見普通だが、どこかおかしな人物を描くのに長けており、今回はその彼女の筆致が存分に生かされた出来映えとなった。
誰もが少し異常なパウルの家族は、それでも途中までは何とか機能していた。しかしある時点から、誰も気づかないうちにそのタガがはずれてしまうのだ。読者にもパウルにも少しずつ違和感がつのってくるのだが、それがどこから来るのかよくわからない。それが不気味で、しかし随所にちりばめられたノルの微妙なブラックユーモアがその不気味さを和らげ、逆に場面によっては絶妙なおかしさを醸し出している。

ただノルは話を展開させ、読者をひきつけながらも、最後をうまくキュッと〆るのがあまり得意でないのかもしれない。終盤のパウルの心情は、私にはあまりよく理解できなかった。家族の死と再生というオチはいいのだが、パウルの心情描写が足りないせいで読者が彼に共感できる前に話が終わってしまった感がある。そこが画竜点睛を欠いたようで、残念。

アマゾン.jp へ:Rabenbrüder / アマゾン.de へ:Rabenbrüder

原題: Rabenbrüder
著者: Ingrid Noll (イングリット・ノル)
出版年: 2003

HOME > 書評目次 > ‖ 読書の記録
────────────────
(C) Hana 2003 ウィーン今昔物語