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モンテ・クリスト伯

去年、ジェラール・ドパルデュー(鼻が大きいフランス人俳優)主演の4部作大河ドラマ『モンテ・クリスト伯』(1998)を見たのである。私はジェラール・ドパルデューが嫌いなのだが、それでも最後まで何となくこのドラマを見てしまい、原作も是非読みたい気持ちになったため実家の母に頼んで岩波文庫の『モンテ・クリスト伯』全7巻を送ってもらったのだ。本を読み出すとあまりの面白さにすぐさま読み終えてしまったので、このたびもう一度じっくり読み返してみた次第。

悲しいことに、ドラマを先に見てしまったため、本を読んでいる私の中のモンテ・クリスト伯の顔がいつもジェラール・ドパルデューに……。本を先に読んでいれば、映像を後で見ても自分のイメージを持っていられるのだが、今回それが逆だった為、好きでもないジェラール・ドパルデューの面影につきまとわれて大変だった。
14年間も牢獄に入っていたというモンテ・クリスト伯は吸血鬼のように蒼ざめた顔をした黒髪の男なのであるよ。それがジェラール・ドパルデューじゃ太り過ぎで血色がよすぎるし、黒髪ですらない。しかもドラマ内の変装もいただけなかったな。特に神父と伯爵は似過ぎである。つけ鼻してても、元の鼻が大きいから全然違いがわからなかったし。
しかしそれを抜きにすると波瀾万丈のドラマに引き込まれて、今回も夢中になって読んでしまった。

岩波版の翻訳文は、いくらか古臭いのでそれが気になる人もいるかもしれない。私は却ってその古めかしさにデュマの時代の文体が現れている気がしていいと思ったが。ただ、注意深く読んでいくとその翻訳文も意味がわかりにくかったり、不明だったりする気がして、何度か「あれ?」と思わされたことはあった。
例えば3巻128ページのアルベール・モルセールのセリフ。
「君も知っていることと思うが、或る事件の調停を頼んだ二人の立会人のやつが、僕にいやおうなしに親友の一人の喉を撃ち抜かせてからというもの、僕は決闘というものが嫌になってね。その親友、そうだ、それこそ君たちも知っているフランツ・デピネーだったんだ!」
このセリフは、発言者のアルベールが親友のフランツを決闘で殺したように読める。だが死んだはずのフランツはピンピンしていて、後でモンテ・クリスト伯の敵の娘と婚約したり婚約を解消したり、忙しく立ち回る。これが誤訳なのか、デュマが何か間違えた文章を書いたのかは知らないが、私はこの発言を読んでしばらく首をひねってしまった。アルベールも親友を殺したわりには快活で陽気で、周囲も親友を殺して朗らかな男を咎めもしない。何か変なのである。しかしフランス語が読めない私は原文にあたることもできないしな。だったら英語かドイツ語の訳文をチェックしてみればいいのだが、面倒なので結局そのまま。

小説の最後にはあまり気に入らない。私はエドモンであるモンテ・クリスト伯とメルセデスに結ばれて欲しかったが、モンテ・クリスト伯はウキウキと別の女性と旅に出てしまう。だがドラマのほうはモンテ・クリスト伯とメルセデスのハッピーエンドで終わっており、多分こういう終わり方がいいと思う人もかなりいるのだろう。ただデュマとしては、どういう形であれエドモンを裏切ったメルセデスに第二のチャンスをやる気などさらさらなかったのだろうな。まぁその気持ちもわかるが。

小説が書かれた時代が時代なので、デュマ自身の考え方にも時代の影響というか偏りが当然ながら表れている。
つまり、この小説で多くの男性が個性的に野心的に描かれているが、女性陣は大概控え目で慎ましやかなのである。中でもメルセデス、ヴァランティーヌ、エデの3人は特に肯定的に描かれているが、この3人ともが淑やかで行儀はいいが覇気というものに欠けていて(個性に欠けている気もする)、現代の私から見ると弱々し過ぎて全く物足りない。またこの3人に限らず、どの女性もやたらしょっちゅう気絶するのだ。(それも当時のたしなみの一つだったのか?)なんとなくデュマの女性観が窺えて面白い。逆に女性作家の描く小説では、精神的なショックを受けて女が気絶するなどというシーンは稀だったりする。案外男のほうが気絶に幻想を抱いていたりするものなのかもしれない。
その中で異色のアウトサイダーは銀行家の娘ユージェニー嬢。男との結婚を嫌い、許婚者が犯罪者であったことをこれ幸いと、家から金をちょろまかして女友達と出奔してしまう。その際には髪を切って男装して出かけるのだ。何だか宝塚の嚆矢みたいな人であった。デュマは登場人物にユージェニー嬢の悪口ばかり言わせていたが、自力で幸せになろうと道を切り開いて行く女性はこの人一人である。なぜデュマが、本筋とはあまり関わりのない部分で一人だけ異彩を放つ女性を登場させたのか、それはそれで気になったりした。

最後に

[2004/02/29 改]

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原題: Comte de Monte-Cristo
著者: Alexandre Dumas
出版年: 1841-1845
日本語版
翻訳者: 山内 義雄
出版社: 岩波書店

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