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メリー・スチュアートの暗い秘密

先日文房具屋で本の安売りをしており、ちょっと見ていたら『メリー・スチュアートの暗い秘密』という本が目についたので買ってみた(2.5ユーロ)。これは英国女流作家が書き、ドイツ語訳された本。わざわざ版権を買ってまで翻訳出版するくらいだから面白い本なのかも……という期待は半分裏切られ、半分満たされたような感じ。まぁこの前読んだシュテファン・ツヴァイクの『メリー・スチュアート』とは比較にならない出来の本であることは確かである。

イギリスのエリザベス一世のライバルであったスコットランドの女王メリー・スチュアートは3回結婚している。1度目はフランス皇太子のフラソワ二世と、2度目はイギリスとスコットランド皇室の血を引いているヘンリー・ダンリーと、3度目は家臣のボズウェルと。彼女自身イギリス皇室の血統も継いでいる。というのも、彼女とエリザベス一世の祖父はイギリス国王であったリチャード七世なのだ(つまりこの2人の女王は従姉妹同士)。そのためエリザベス一世は潜在的な王位簒奪者として常に血縁者のメリー・スチュアートの存在を警戒し、疎んじていた。(メリー・スチュアートが一時『イギリス・スコットランド・フランスの女王であるメリー・スチュアート』なんてサインしていた時期があり、それがエリザベス一世を非常に怒らせたという過去もあったし、新教国イギリスと旧教国スコットランドという確執も大きかった。)

元々病弱であった最初の夫フランソワ二世はメリー・スチュアートと結婚して1年か2年で亡くなってしまい、彼女はスコットランドへ帰郷する。そこで彼女は次の婿候補の1人であった美男子のヘンリー・ダンリーにベタ惚れしてしまい、次の結婚式を挙げるのだ。
ところがこのヘンリー・ダンリーという男は外見以外にいいところがなかったらしい。意志薄弱で頭もよくないくせにやたら政治にくちばしを突っ込みたがり、結婚後しばらくすると傍若無人に振舞うようになる。それに堪え切れなくなったメリー・スチュアートは妊娠を理由に彼を避け始め、ある寵臣と密接な関係を持ち始める。(しかし肉体関係はなかった模様。)これに嫉妬したヘンリー・ダンリーはよりによって他の新教諸侯と組んで、妻のメリー・スチュアートに対して反乱を企てる。そして身重の彼女の目前で問題の寵臣を殺害し、彼女を幽閉してしまうのだ。 メリー・スチュアートは勇気と機転で何とかこの危機を回避する。そして夫だけでなく反乱に加わった諸侯たちも許し、国内の秩序の回復をはかる。夫婦仲はこれで徹底的に壊れてしまったように見えたのだが、ヘンリー・ダンリーが居城にて病気(風疹とも梅毒とも言われている)で寝込むと、メリー・スチュアートはわざわざ自身の居城の近くの家に彼を住まわせて献身的に介護する。しかしヘンリー・ダンリーがほぼ回復し、メリー・スチュアートと共に彼女の城に移ろうという前夜、彼の住む家は何者かによって粉々に爆破されてしまうのだ。勿論スコットランドの国王は死亡し、犯人をめぐって国中で上へ下への大騒ぎが始まる……。
この事件は未だに解決されておらず、誰が犯人だったのか不明のままである。(ツヴァイクはメリー・スチュアートと彼女の愛人犯人説を支持し、この本の著者のドゥクタスはこれがスコットランドの新教貴族とイギリス側の陰謀だったとしている。)

で、本作品は歴史的犯罪ロマンとして、この謎に迫っている。が、実際には上記の事件を背景にしたただの探偵小説である。フランス語を話すイエズス会司祭で、謎の多い不老不死の主人公セガーラ (Segalla;発音これでいいのか?)が、フランス司教の密命を受け、外交官としてスコットランドへ赴く。そこでヘンリー・ダンリーが殺され、セガーラは真犯人を発見するために謎解きを始める。

しかし、現代の探偵よろしく16世紀のスコットランドで外国人のセガーラがあらゆる人間から情報を引出せるのが変な話。国王の死体をじっくり検分したり、死因について皇室お抱え医師やその他の貴族と話したり、普通はできんでしょう。
それからそれぞれの人物像がそれほど深く掘り下げられていないので、平板で情緒に乏しい話になってしまっている。その点でこの話はツヴァイクの『メリー・スチュアート』の足元にも及ばない。(逆にツヴァイクの情熱的人物描写が過度で鼻につく部分もあるのだが。)
最後はお約束通り(私にとっては)思いがけない人物が犯人。しかしそこまで緊張感を高めて読者に「あっ!」と言わせるというよりは、ダラダラダラダラ状況描写を続けて主人公に行ったり来たりさせてやっと犯人が登場するので、「やっと出てきたの〜」と鼻をほじりながらつぶやくような、そんな最後であった。

しかも(一応)歴史小説で不老不死の男を主人公に据えるのってどうよ?と思っていたら、巻末で著者はこれが実在する人物らしいと種明かしをしている。実はその部分が一番面白かったりした。その部分を訳してみると:

多くの人間がセント・ジャーメイン (Germain) 伯爵についての記録を残している。彼は1620年、1730年、1789年にフランスにいたという。(マリー・アントワネットは彼に知り合ったことだけでなく、彼の警告に耳を傾けるべきだったとも綴っている。)彼はベリー公爵が1820年に殺される前に、公爵に謁見してもいる。またナポレオン三世はこの現象を解明するため、わざわざ調査委員会を結成した。しかしこの委員会の報告書は不可解な火事によって消失してしまった。 彼の存在はアメリカ合衆国でも報告されている。第二次世界大戦前夜、科学者と諜報員はある男の行方を追っていた。この人物はプルトニウムという概念がまだなかった時代に、プルトニウムについて語っていたそうである。これが(本の主人公の)セガーラ、あるいは不死の秘密結社の一員であったのかもしれない。

ちなみに著者は歴史学者で、アン・ドゥクタスというペンネームで歴史小説を書いている。この小説は彼女が95%まで史実に基づいて書いたものだという。

アマゾン.jp へ: A Time for the Death of a King

原題: A Time for the Death of a King
著者: Ann Dukthas (translated by Marion Balkenhol)
出版年: 1994

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