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死のフェニーチェ劇場

1991年のサントリーミステリー大賞に選ばれた推理小説。英語で書いてあるが、舞台はヴェネチアである。著者はドナ・レオン。(よくよく見てみると、サントリーミステリー大賞作や入賞作に選ばれた作品の非常に多くが文藝春秋社から出版されている。この偏りはどういうことなのか?小説と全く関係ないが気になる。)

『死のフェニーチェ劇場』はヴェネチアのブルネッティ警部を主人公にしたシリーズ第一作で、以後毎年のように一作ずつブルネッティシリーズが出版されている。日本語には『死のフェニーチェ劇場』以外には二作目の『異国に死す』しか訳されていないようだが、ドイツ語には全作品が訳されていてブルネッティ警部も中々人気のようである。
しかし地味で地味でどうしようかと思ったほどぱっとしない小説であった。途中で読むのを止めようかとも考えたが、一応英語の練習になるからと自分を騙しながら読んでいった。

話は本の題にもなっているヴェネチアのオペラ座フェニーチェ劇場から始まる。その日の演目オペラ、トラヴィアータの終幕直前にドイツ人花形指揮者のヘルムート・ヴェラウアーが楽屋で毒殺されているのが発見された。この事件の担当者がブルネッティ警部なのだが、彼がこまめに人から話を聞いて回っているわりには状況が曖昧模糊としたままで、警部の上司と同じく読者も歯痒い気持ちにさせられる。結局最後まで派手な立ち回りや第二、第三の殺人などは起きず、ブルネッティ警部が根気よく細々と事件の手がかりを集めて人の話を聞いていくだけ。

アメリカ人である著者のドナ・レオンがわざわざヴェネチアを舞台にヴェネチアっ子の警部を主人公に据えただけあって、ヴェネチアの風景や風俗描写、はたまたイタリアの腐敗政治についてのコメントまでがあちこちに散りばめられている。ヴェネチアファンにはきっとそこらへんが面白いだろう。ドナ・レオンのヴェネチアへの愛が伝わってくる。(が、私はウィーンファンなのであまり感じるところはなかったというのが正直なところ。)
だが、ブルネッティシリーズは著者の反対でイタリアでは全く出版されていない。(つまりイタリア語に訳されていないという意味だと思うが。)これはイタリア人でもない著者がヴェネチアを舞台に書いた小説が、イタリア人に不満を引き起こすことを恐れてのことらしい。確かにかなり赤裸々にイタリアのダメぶりが描かれている場面が何度か出て来る。でも多分それもかなり真実に近い描写なんだろうから、それほどビクつかなくてもいいような。

最後はかなりあっと驚ける結末になっていると思う。少なくとも私は驚いた。まあ地味に地味に進んで来たので、それをちゃんと納得できる形に結実させてくれないと読者も切なくなってしまうが、最後まで我慢した甲斐はあった。私の根気は無駄でなかったと思える結末だった。
その進展も上手で、最初のうちは五里霧中なのだが、少しずつ少しずつ読者もブルネッティ警部もそれと気づかないうちに霧が晴れていく。まだ霧は残っているんじゃないかと思っていると、どんどん日が射してきてバーンといきなり結末に突き当たるような終わり方であった。

殺されたドイツ人指揮者ヘルムート・ヴェラウアーのモデルはカラヤンかなとちょっと思った。ファーストネームがヘルムートとヘルベルトで似てるし(偶然なのか?)、カラヤンもナチとの関係が噂されていたらしいしな。結局それはウヤムヤになっちゃったようだが。

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原題: Death at La Fenice
著者: Donn Leon (ドナ・レオン)
出版年: 1992
日本語版
翻訳者: 春野 丈伸
出版社: 文藝春秋社

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