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ホビットの冒険

『ホビットの冒険』表紙 著名なトールキン研究者であるアンダーソンという人が編纂したこの本は、1966年に出版された『ホビットの冒険』の第2版に詳細な註釈や説明を加えたもので、『ホビットの冒険』成立の背景や個々のエルフ語の語源、トールキンのコメントなどについてこまごまと書かれている。物語部分は各ページが7:3くらいの割合でわけられていて、7の部分に物語が書かれ、3の部分に脚註がつけられている。このレイアウトのせいで物語が多少読みにくい観があるが、本書の膨大な註を尾註にしてしまうとそれが読まれなくなる可能性が高くなるであろうため、このレイアウトは仕方がないと言えば仕方ない。いちいち註に邪魔されたくない人は、普通版の『ホビットの冒険』を読むことをお薦めする。

註の中でも重箱の隅をつつくような細かい指摘(例えば「この文章は1937年版において××ではなく、○×と書かれている」といった個所に全て註がついている)には時折げんなりさせられたが、ヨーロッパ各地の伝説と物語中のエピソードの比較や編者アンダーソン自身の考察などには一読の価値がある。(Hobbit と rabbit の類似点や、ビルボがなぜ火口箱でなくマッチを持っているのか、トールキン自身はエルフの耳が尖っているのかどうか決して言及しなかった事実……等々について。)

またアンダーソンはトールキン自身の描いた挿絵だけでなく世界中の訳本につけられた挿絵も本書に載せているので(最新の、映画版『指輪物語』の製作に関わったアラン・リーの絵もいくつかある)、様々に解釈されたビルボやガンダルフや各場面が比較できて面白かった。例えば『指輪物語』の映画のゴクリはホビットとほぼ同じ大きさの妖怪(?)となっているが、トールキンはゴクリの大きさについて特に明記していないので、それがビルボの何倍もの大きさに描かれていることも珍しくないという。もちろんここには寺島竜一氏による日本語版の挿絵も紹介されている。氏は原作者の挿絵をよく研究しそのコンセプトに添った絵を描いたため、トールキンは氏の挿絵を見て非常に喜んだそうである。
私は子供時代によく読んでいた本の挿絵を描いた画家たちが、この『ホビットの冒険』や『指輪物語』の挿絵も描いていたことを知って、何だか嬉しい気持ちになった。『ムーミン』の原作者トーべ・ヤンソンや『ナル二ア国物語』のポーリン・ベインズなど。逆に個人的には、日本の兜をかぶって刀を差したドワーフの首領(1971年ドイツ語版)やオカマのような妖精王(1957年ドイツ語版)、足のつま先から太腿まで毛が生えている部分ハゲビルボ(1976/1989年ロシア版)、ナマハゲのような顔のトロル(1973年スロヴァキア版)などはどうかとも思ったが、多種多様な挿絵を見て勝手なコメントを頭に思い浮かべてみるのも楽しかった。ちなみに私のお気に入りはフランス人画家チカによるビルボ。アフロヘアにダブルボタンのコートと縦じまズボンを身につけた3頭身ビルボは50歳とは思えないほどの可愛らしさである。(途中ビルボのコートのボタンは全部取れてしまったのではないかと思うが、あんまり野暮な指摘はしないでおく。)

装丁にはトールキン自身による、竜のスマウグが宝の山に寝そべっている絵が使われており、本の中ほどにはカラーの挿絵もいくつか紹介されている。大きめ(20×24cm)で400ページ近くもある厚めの本なので、トールキンマニア或いは熱烈ファン向けの本のようにも見えるが、註を拾い読みし、挿絵を眺めるだけでも楽しいので実は一般読者にもお薦めできる一冊である。普通の『ホビットの冒険』を読んだ後こちらを読んでみるのもいいかもしれない。

アマゾン.jp へ: ホビットの冒険 / The Annotated Hobbit, The Hobbit (これは註釈なし)

原題: The Annotated Hobbit (revised and expanded edition)
著者: John Ronald Reuel Tolkien (edit. by Douglas A. Anderson)
出版年: 2002

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