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ロシア異界幻想

ロシアをはじめとしたスラブ民族の死生観や、生と死の世界の狭間に漂う霊(妖怪)の存在などについてまとめてある本。1章から6章まで、『「この世」と「あの世」のしきい』、『家の霊域に棲むもの』、『ロシア・フォークロアにおける「死」の概念』、『「聖なるロシア」の啓示』、『ロシア的終末論』、『天国と地獄の幻景』についてそれぞれ書いてある。

題だけ見ると難しそうだが、平易な文章で書かれていて読み易い。またロシアの民俗学者によって収録された人間と霊との遭遇エピソードが多く取り上げられているために内容が理解しやすい。特に最初のうちは多くの例が挙げられているので、読者が本の世界にすんなり入っていける仕組みになっている。また2章で語られるドモヴォイと呼ばれる祖先の霊や赤ん坊の焼き直し儀式、ロシア農家の建築様式などは、ロシアの生活習慣や風俗と深く関係しており、その考察などは非常に興味深い。当然のことながらこういった習俗は日本のものとは全く異なっているのだが、少しでもその違いや類似点にも言及してあれば、日本人の霊的世界と並行した存在として、ロシアの異界をもっと卑近なものとして読者が感じることもできたのではないかと思ったりした。
3章以降で語られる、スラブ人の死の概念、死後の世界のあり方などは、15世紀あたりから普及したギリシア正教と土着の宗教の思想が混ざり合って生まれたもので、その独特な死生観も中々面白い。

ただ、本書ではロシア民衆の死の世界、聖の世界に焦点が当てられ、「生」や「俗」についてはあまり語られていない。しかし宗教や自然だけでなく、政治や社会環境といった外の俗世界の要素も民衆の死生観に大きな影響を与えたのではないか。特に長い間専制君主に圧制され、何度も虐殺や戦争や飢饉などという災厄の犠牲となってきた多くのロシア民衆たちが、そういった不満や恐怖をどのように想像上の「あの世」に反映させたのか、どういう救いを求めたのか、その結果どういうロシア風の天国および地獄が生まれたのか、もっと具体的につっこんで書いてほしかった。
面白い内容の本なのだが、ロシアの異界要素がひとつひとつ順に説明されているだけで終わってしまった感がある。そこにもう一歩踏み込んで俗世界と宗教的内面世界の関連付けがあったら、もうひとつ別の局面からもロシアの異界を眺めることができたのではないかと思えて少し残念。

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原題: ロシア異界幻想
著者: 栗原 成郎
出版年: 2002

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