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ソロモンの指環

これは以前ある古本市で2ユーロ(約250円)で買った本で、1949年の2刷版なのだ。初版でないので価値はないと思うのだが2刷版の前書きまでついているし、実はお宝かもしれないような気がしないでもない。しかし表紙は歪んでいるし、オリジナルカバーはところどころ破けているし、本の背は日焼けしてまだらになっているし、お宝だとしてもこんな瑕疵があったら売れないだろうな。でもやはり気になる。
それは置いておいても、日本語版にはないかもしれない著者自身によるユーモラスで詳細な挿絵も数多くあり、満足できる買い物ではあった。

この本を書いたのはオーストリアが生んだ偉大な動物行動学者のコンラート・ロレンツである。ハイイロガンを飼育し、孵化したばかりの鳥の雛にすり込みができることを偶然発見したのもこの人。おかげで1973年にはノーベル賞も受賞した。そんな人の書いたエッセイがこの『ソロモンの指環』なのだが、やはり動物の行動を観察し続けたという人だけあって、笑い話や苦労話が尽きない。動物好きには必読の一冊である。

特に印象に残ったのはコクルマガラスのエピソード。カラスは元々頭がいいので人にも懐きやすいようだ。それでも人が手に何か黒いもの(カラスでなくても布か何か)を握っていると仲間が危機にあると勘違いして、仲間を捕らえている敵を激しく攻撃する。しかし個々のカラスを判別するためには、1匹1匹捕まえて足首に輪っかを取りつけなくてはいけない。そこでカラスたちを欺く(?)ためにロレンツが取った方法というのは、夏の最中にクランプス(12月8日にニコラウスの従者として現れる角と尻尾つきの悪魔)に変装すること。ギャ−ギャ−鳴き喚くカラスたちにつつかれながら輪っかをつけ終え、ふと気づくとご近所さんが集合して柵の向こうから驚き呆れて騒ぎを見ていたそうだ。
他にも、有夫の身でありながらしつこいアピールを続けてついには他カラスの夫を寝取って出奔した左緑(これが足の輪の位置と色からつけられたカラスの名前)や、後に残された右赤に何年も経ってから訪れた幸せなど、稀有な動物ドラマももりだくさんである。

元々鳩よりもカラスに好意を持っている私は、これでもっとカラスが好きになってしまった。また、うちの近所(と言っても徒歩1時間ほどのところ)にコンラート・ロレンツ動物行動研究所とかいうものがあるので、そこらへんをうろついているカラスにはもっと親しみを感じてしまう。(尤もロレンツ自身はウィーン市内ではなく、主に自宅のあるウィーン郊外のアルテンベルクという地で動物の研究をしていたらしいが。)

それからカラス違いだが、シートン動物記で有名なシートンはハイイロガラスのシルバースポットについて詳細な記録を残している。ロレンツがカラスの鳴声を単に文字で書き表しているのに対し、シートンはこれを音符でも表しており、2人の動物学者の視点の違いを比較してみても面白いかもしれない。
ちなみに私はこの『ソロモンの指環』を読んで以来、カラスの鳴き声の違いとやらを区別しようと何度か試みてみたが、全然わからなかった。やはりソロモンの指環はまず当該動物と仲良くすることから始めないとその効果を発揮しないらしい。

最後に本の題について。
原題は『彼は動物や鳥や魚と話をした』というもので、その中の一章に『ソロモンの指環』という名がつけられている。本を日本語に訳した日高敏隆は原題をこの『ソロモンの指環』に変えたわけなのだ。このほうがわかりやすく簡潔な題になる。気のきいた改題だ。
(と思っていたのだが、英訳の題が『ソロモンの指環』であった。この題を真似しただけだったのかもしれない。)

アマゾン.jp へ: ソロモンの指環King Solomon's Ring (英)、 Er redete mit dem Vieh, den Vögeln und den Fischen (独)
アマゾン.de へ: Er redete mit dem Vieh, den Vögeln und den Fischen (独)

原題: Er redete mit dem Vieh, den Vögeln und den Fischen
著者: Konrad Lorenz (コンラート・ロレンツ)
出版年: 1949(第二刷)
日本語版
題: ソロモンの指環
翻訳者: 日高 敏隆
出版社: 早川書房

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