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人イヌに会う

私が犬を飼うにあたって色々な本を買い漁って読み、人に話を聞いて悩みながら試行錯誤していったものだが、この本を読んで今更ながら無駄な出費をしてしまったことに気づいた。
本の中でロレンツは特に犬のしつけについていちから語っているわけではないのだが、犬と人間の共同生活の始まりから犬の性質、犬と他の動物の共同生活、野生犬や狼と飼い慣らされた犬の違いなどについて、自らの経験を踏まえながら平易な文章で面白おかしく語ってくれる。また犬のしつけ本の多くが(考えてみれば当然のことだが)、ロレンツの犬行動理論に依拠しているようで、「あの時あの本に出ていたアレはロレンツが言っていたことだったのか(もしかしたらロレンツの先人の理論なのかもしれないが)」と思える部分が多々あった。そのため大同小異の犬しつけ本を何冊も読むより、この一冊をじっくり読んで反芻したほうがよほど有用であったと思われるのだ。

ロレンツが愛してやまないのが自らシェパードとチャウチャウをかけ合わせた種の犬たちだ。狼の血筋を濃く受け継いでいるチャウチャウ系の犬がどれほど飼い主一筋で賢い犬なのか、様々なエピソードをまじえながらロレンツは熱っぽく説明し続ける。(しかしこのロレンツが作り出したという犬種、今でも存在しているのだろうか?実際にどんな外見のどういう性質の犬たちなのか、自分の目で見てみたい気もする。)
だが問題点もある。興味深い本ではあるが、これを読むと自分の犬とロレンツの犬たちを比較してしまい、自分の犬の馬鹿ぶりと平凡な単純ぶりに溜息が出そうになってきたのである。しかしこれから犬を飼おうという人には、ロレンツがどういう子犬を選んだらいいのかアドバイスをしてくれるのであんまり心配はない。(私はこのロレンツのアドバイスと全く正反対の子犬選びをしてしまったのである。別にそれを後悔しているわけではないが、「あらら〜」という気持ちはやっぱりちょっとある。)

しかしロレンツは犬バカ、動物第一主義というわけではない。人間があった上で犬やその他の動物たちが来ると考え、人間関係を避けて飼い犬の愛情に逃げ込む『アンチ人間主義』には警鐘を鳴らしている。動物をこよなく愛しながらも、あくまで人間が生物ピラミッドの一番上に君臨するという、科学的で何よりキリスト教的な観察眼がロレンツの卓越した点なのかもしれない。(だが現在専門家の間でロレンツの取った行動学研究方法は動物に近づき過ぎていたという点で一部批判されてもいるらしい。動物行動学の研究者として対象動物とどういう距離を保つのか、それも中々難しいようだ。)

何はともあれ、これは犬を愛する全ての人にお薦め出来る一冊である。

アマゾン.jp へ: 人イヌに会うMan Meets Dog (英)、 So kam der Mensch auf den Hund (独)
アマゾン.de へ: So kam der Mensch auf den Hund

原題: So kam der Mensch auf den Hund
著者: Konrad Lorenz (コンラート・ロレンツ)
出版年: 1963
日本語版
翻訳者:小原 秀雄
出版社:至誠堂

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