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ヒットラーに抵抗した女たち

題からもわかるように、この本はヒットラー抵抗運動に身を投じた様々な女性たちの記録である。著者のシャートの前書きによると、1934年から1944年までの10年間に11,900人もの人間が死刑に処され、うち約1,100人が女性だったそうである。シャッドはそんな女性たちを幾人か本書で取り上げ、彼女たちがどのような経路で抵抗運動に参加し、どんな役割を担ってヒットラーの国家社会主義と戦ったのか、テーマごとに詳細に語る。

母であったり、娘であったり、妻であったりする彼女たちの勇気と強さには感嘆させられた。ただシャートはなるべく多くの情報をいっぺんに詰め込もうと欲張りすぎたきらいがある。つまり彼女はAという人物について語っている最中に、その友人でやはり抵抗運動に参加したBの話を始める。そしてそのBの後にはAとBの恩師であるCが処刑されるまでを述べ、やっとまたAの話に戻る……という具合なのだ。多分出来事の同時性を強調するためにそういう構成を採用したのだと思うが、話がいくつも並行してしまうと読んでいて筋を追いにくく、頭が混乱してきた。
それとは反対に、同時期の複数の女性の話をA→B→C……と順に展開している章もあり、すんなりと話が頭に入ってくる章とそうでない章の違いが大きい。
それから記述が詳細に過ぎる。と思ったのは私が門外漢だからかもしれないが、甲伯爵の学友の乙公が、丙婦人と結婚して……と色々続くのにも閉口した。そういった情報は専門家には有用なのだろうが、一般読者にはあまり面白くない。

私が特に興味をもって読んだのは15章目の『1944年7月20日以降』である。
1944年7月20日は、ナチの幹部によるヒットラー暗殺が失敗した日なのである。それによって事件に直接関わった者だけでなく、その家族を取り巻く状況までが一変した。『1944年7月20日以降』においては、この日を境に反逆者の妻という立場に陥った女性たちが家族を守り、何とか夫を救おうとする死に物狂いの戦いについて記してあるのだ。
残念だったのは事件のその後に話が集中し、その前の描写がほとんど欠けていたこと。彼女たちはそれまでナチ幹部の妻として多くの恩恵をこうむってきたわけである。それがある日いきなり政治犯の扱いを受け、真のナチの姿に直面する。そこで彼女たちの考えがどのように変わったのか、夫の行為をどう受け止めたのか、事件の前後の心情を比較しながら内面の葛藤にも踏み込んでくれたら、この章の記述にもっと深みが出たのではないかと思った。そういう意味では、事実の記述のみにこだわり過ぎ、当事者の感情や内面世界への言及が少な過ぎた感がある。

その他最終章の『ゾフィー・ショル』も中々よかった。
ゾフィー・ショルは白薔薇抵抗運動の当事者であった女性である。白薔薇とは、ミュンヘンの学生を中心にナチス政権に反対するビラを作成配布したグループのことで、ゾフィー・ショルは兄のハンスと共にこの運動に深く関わっていた。しかしゾフィーはある日大学で兄と共にビラを所持しているところを捕まってしまい、他の首謀者と共に死刑に処せられる。
白薔薇抵抗運動については詳しく知らなかったので、今回ゾフィーを中心とする視点から事件の全貌について読むことができて勉強になった。

この本の全体の印象はと言うと、地味の一言に尽きる。ヒストリーというドイツの歴史雑誌に『ナチスの女たち』という毎回読みきりの連載があったのだが、こちらには女優や歌手や富豪など華やかな女性たちが数多く現れ、華麗なエピソードや知られざる裏話が次々に語られる。ついつい私はこの両方の著作を比べてしまうのだ。
時の権力者に楯突いた女性と、その恩寵を受けた女性。その状況の明らかな相違が、著作の雰囲気の違いにも現れているのだろうが、それ以外にも大きな違いがある。この『ヒットラーに抵抗した女たち』は史実にこだわって記録を追いながら事件を詳述しているため、どうしても(一般読者には)冗漫な個所がいくつも出て来てしまう。それに対し『ナチスの女たち』は資料を追いつつも個々の人物にスポットライトをあて、彼女らとヒットラーやナチスとの関係を詳細に描いているため、読み物としての面白さという点からいうとこちらに軍配が上がるのだ。
本書を読んで『ナチスの女たち』もちゃんと読んでみようと思った次第。こちらはいくつかの読みきりを読んだだけなので。
[004/05/28 改]

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原題: Frauen gegen Hitler
著者: Martha Schad (マルタ・シャート)
出版年: 2001

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