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きたれ、甘き死よ

これは、オーストリアの売れっ子作家の1人、ヴォルフ・ハースによるジモン・ブレンナー・シリーズの3作目で、ドイツ推理大賞を受賞した作品でもある。このシリーズでは、小説の語り手であるが主人公ではない一人称の「私(俺のほうがしっくりくるかも)」が主観的独り言を交えながら(時々下品な)口語体で話を進めていく。主語を略すことができる日本語においては、正体不明の第三者が小説を語っていってもあまり不自然ではないと思うのだが、ドイツ語ではそれが非常に斬新で、その効果もあってかジモン・ブレンナー・シリーズはいくつもの著名な賞を受賞した。しかし普通のドイツ語の書き言葉に慣れていた私は、この変わったスタイルに戸惑い、途中まではかなりイライラさせられた。(同じスタイルの小説を日本語で読めば、抵抗はなかったような気がするが。)
独特の語り口調は読者を笑いの渦に巻き込むような切れのよさと、妙に回りくどい部分があり、私は最後までそれを100%楽しむというわけにはいかなかった。(勿論それには語学力不足もあるだろうが。)

主人公のブレンナーは元刑事で、警察を辞めた後は私立探偵として働いていた。だが探偵業も立ち行かなくなったので、今度は救急隊員として働き出す。しかし一言で救急勤務と言っても、ウィーンにはいくつもの救急団体が存在している(実際には赤十字、サマリア同盟、ヨハネ騎士修道士会などなど)。ブレンナーが働くことになったのは、ウィーンの救急業務の多くを手がける十字救急会であるが、これは後から追い込みをかけてきた救急同盟とライバル関係にある。
そんなある日、ブレンナーの同僚が救急車内で絞殺され、別の同僚が犯人として逮捕された。しかしブレンナーの上司はこの殺人をライバルの救急同盟が仕組んだことと考え、元私立探偵のブレンナーに真犯人を見つけ出すよう命じる。過去と訣別したつもりでいたブレンナーは嫌々この指示に従い、ノロノロと自己流の捜査を開始する。

このブレンナー、複雑に込み入った殺人事件を解決するには随分のんびりしていて、色々と寄り道をしながら真実に近づいて行く。そのため最初のうち、私には何が事件とどう関係あるのか見当もつかず、おまけにお喋り調のナレーション(?)にも中々馴染めなくて難儀した。話がだんだん面白くなってきたのは中盤以降で、そこまで来たら一気にこの本を読み上げてしまった。
話の構成はよく出来ていると思うのだが、私好みの複数の伏線が最後は1本にまとまるという終わり方ではないので、読後感は今ひとつであった。特に初めのうちは話があちこちに飛ぶことと、語り手の登場人物に対する独特のコメントが邪魔であった。それをすんなり受け入れられるかどうかで、この本に対する評価が全く変わってくるのではないかと思う。

さらに残念だったのは、終盤に入るとあっさり真犯人がわかってしまうこと。もう少しブレンナーを聞き込みに回らせて、読者に謎解きの楽しみを残しておいてくれてもよかったような……。
背景となる救急隊の活動についての描写は、知らない世界を覗き見るような気持ちで読むことができた。ただこの小説に書かれているように、それぞれの団体が互いを憎悪し合うような関係に本当にあるのかどうか、いつか救急車に乗るやもしれない身としてはそんなことも気になる。

だらだらと細かいことを感想に書いてしまったが、つまりそれ以外にはこの作品について書くことが思いつかなかったからなのである。正直に言って、この作品を面白いとは思えなかった。

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原題: Komm, süßer Tod
著者: Wolf Haas (ヴォルフ・ハース)
出版年: 1998
日本語版
翻訳者: 福本 義憲
出版社: 水声社

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