HOME > 書評目次 > 猫たちの聖夜 ‖ 読書の記録

猫たちの聖夜

猫を主人公にした推理小説。舞台は猫世界で、被害者及び犯人(犯猫?)、探偵に至るまで猫づくし。

話は主人公のフランシスが同居人間(フランシスにとって猫と人間は対等なので、一緒に住んでいる人間も飼い主ではないのである)のグスタフとお化け屋敷のようなボロ家に引っ越してきたところから始まる。その新居の裏庭でフランシスは、首の後ろを噛まれて死んでいる同族の死体を発見。同時に尻尾と片目がなく、びっこをひきひき歩くグロテスクでクールな猫、青ヒゲとも知り合いになる。青ヒゲの話によると、この類の殺猫事件はこれで3件目だという。好奇心にかられたフランシスは早速捜査を開始するが……。

このフランシス、非常に口が悪い。特に同居人間のグスタフのことをボロクソにけなす。しかしその悪口雑言にユーモアと知性が混じっているので、読んでいて不快になるどころか、プッと吹き出してしまうこともしばしば。日本の探偵猫には三毛猫ホームズがいるが、あの猫は自ら語らず、どれくらい本を読んでいるのかも不明だし(フランシスは本物のインテリ猫で、ラテン語、猫種族の進化と発展、グスタフの専門である古代エジプト文明の猫話などについても精通しているのだ、最近はコンピューターにも手を出している模様)、飼い主(同居人間?)の補佐役として動き回るだけなので、日独探偵猫比較をすればこのフランシスに軍配が上がるだろうなどと考えてしまった。

さて連続殺猫事件の真相を探るフランシスだが、ある時猫の宗教集会(!)にぶちあたる。何十匹、何百匹という猫が、殉教猫クラウダンドゥス様を崇めながら、恍惚状態に陥っているのだ。クランダンドゥスとはラテン語で、「閉じられるべきもの」というような意味であるが、それは何のことなのか? 謎が謎を呼ぶ。そしてフランシスは偶然見つけた古い日記から、クランダンドゥスの正体を知る。クランダンドゥスは、実験動物として幾多の残虐な苦しみを受けた猫の名前だったのだ。

……ここらへんから話の方向が少し変わってきて、SF的要素が混じってくる。それがまた面白いのだが、実は事件のキーワードがこの小説の原題に隠れている。本書の原題は『Felidae』。これはラテン語の「猫」の複数形で、専門的な場で猫について語られる時にはこの単語が現在でも使用されている。それに対し邦題は『猫たちの聖夜』。これはフランシスがクリスマスの晩に事件の真相を知るところあたりからつけられたのだと思うが内容とほとんど関係のない無害なタイトルで、この邦題は失敗だろうと個人的には思った。また邦題が喚起する静かでホワンとしたイメージと小説のおどろおどろしい、時にグロテスクな内容が全く噛み合っていないのも問題だろう。

そう、この小説はかなり血生臭いのである。
そして未来や過去や事件の真相を暗示するような残酷で意味不明の夢をフランシスは何度も見る。しかしその意味が読者にもフランシスにもわからない。後で謎解きはされるのだが、あまり何度も意味不明な悪夢のシーンを読まされるのは苦痛だった。次回作(このフランシスモノはシリーズになっているのだ)以降は、この似非フロイト的夢分析がなくなることを願いたい。

この事件そのものは人間世界に対する痛烈な皮肉ともなっているのだが、最後、人間擁護派対人間憎悪派の対決が説教臭くなり、お決まりの平凡な方向に落ちついてしまったのが玉に傷。もうちょっとひねくれた終わり方をしてもよかったような……。しかし、それでも本書は上質のミステリである。近いうちにこのフランシスシリーズは全部読んでしまいたい。

本書読了後、自分の猫を見る目が少し変わったような気がしないでもない。
[2004/06/27]

アマゾン.jp へ: 猫たちの聖夜Felidae  アマゾン.de へ: Felidae

原題: Felidae
著者: Akif Pirinçci (ピリンチ)
出版年: 1989
日本語版
翻訳者: 池田 香代子
出版社: 早川書店

HOME > 書評目次 > 猫たちの聖夜 ‖ 読書の記録
────────────────
(C) Hana 2004 ウィーン今昔物語