HOME > 書評目次 > 猫たちの森 ‖ 読書の記録

猫たちの森

先日読んだ『猫たちの聖夜』の猫探偵フランシスシリーズの2作目。どうやらこの小説の時間は、(小説)外の世界と同じ早さで流れているらしく、フランシスと同居人間のグスタフは前回からまた4歳ほど年を取ったらしい。

グスタフはもはや若者向け雑誌にポルノまがいの文章を書かずにも、細々とではあるが自分の専門で食べていけるようになり、フランシスと2人して大きな変化はないが平穏な生活を送っている。
そんな生活に退屈していたフランシスだが、災いは何の前触れもなしにやって来た。
グスタフがフランシスに何の相談もなしに、彼女と同棲を始めたのだ。フランチェスカという名前の彼女とフランシスは、初めて互いを見た時から憎み合い始める。そしてある夜、フランシスはフランチェスカがグスタフを説き伏せ、フランシスの股ぐらにぶら下がっている「クルミ」を取ってしまう計画を立てていることを知る。グスタフの腑抜けぶりと自分の未来に絶望したフランシスは大雨の中そっと家を出て……。

この場面、フランシス自身は惨めな気分にはまり込んでいるのだが、読んでいるこちらはおかしくてたまらない。

しかし大雨が大嵐になるにつれ、フランシスはたかがクルミごときにこだわって家を出たことを深く深く後悔し出す。だが時すでに遅し。もはや家がどこにあったかもわからない。ずぶ濡れになりながらさ迷っているうちに下水に落ち込み、そこで第三の男さながらの迷路にはまり込んでしまう。そのうち怪しげな猫集団に取り囲まれ、殺されそうになるが、持ち前の腕っ節の強さと達者な口でその場を切りぬけたフランシスは逆に猫たちの尊敬を受け、外の世界で猫を殺して回る伝説の「黒い騎士」の居所を突き止めて欲しいと頼まれる。

実はここからがタイトルにもなっている『猫たちの森』シーンの始まりなのである。本書は300ページ以上にも及び、ミステリとしては比較的長い話となっている。それでも息もつかせぬほどにスリル満点ならいいのだが、いくらかダラダラし過ぎなのである。フランシスがあちらこちらで哲学的考察にふけるのはいいのだが(どうやらショーペンハウアーにはまっているらしい)、簡潔に語れば1ページで済むところを3ページくらい使ってくどくど語ったりするので、読んでいて飽きてくることもしばしば。もうちょっとそこをどうにかできなかったものか。

さて、1作目のテーマは「動物実験」だったが、今回のテーマは「自然破壊」となっている。それがどう「黒い騎士」と関係してくるのかは本書を読んでのお楽しみだが、前回と同様切なく重い話となっている。人間によってもたらされた災厄の中では誰が被害者で誰が加害者なのか、フランシスも断じられない。また、その災厄を終わらせる術も知らない。そしてフランシス自身、最後はその災厄に巻き込まれてあの世へと旅立ってしまうのだ(が、主人公なのでちゃんと戻って来る)。
その臨死体験中にフランシスは様々な光景を目にするのだが、それが著者ピリンチの現在及び未来への間接的、暗示的メッセージともなっているような気がした。かなり悲観的なものの見方をしてはいるが、決して希望を失ってはいない。そしてその希望を担い、私たちの身近にある危機を示してくれているのがフランシスなのである(ような)。

ただ今回はその「自然破壊」というテーマが重過ぎて、推理小説的要素が多少かすんでしまった感がある。またこの事件の共犯者が、前作と同じようなスポットにいる同じような才能の持ち主だったので、これでは私でなくともちょっと注意深い読者であればフランシスによる謎解きの前に、ある程度真犯人の見当がついてしまったのでないかなと思った。
次回も同じような位置に同じように怪しげな猫物がいたら、まずはそれを犯人として疑ってかかることにする。しかし推理小説で3度も連続で同じような猫物配置及びプロットが使われていたら、かなりガッカリでもある。さてどうなるのか。

いずれにせよ、最後はめでたしめでたし。
重症を負ったが一命を取りとめ、グスタフの元へと戻ったフランシスは、贅沢な怪我猫生活を謳歌する。また天敵フランチェスカは、こぼれた猫缶の中身に足を滑らせて、便器で頭を打って昇天していたので(何という偶然!)、フランシスの平穏な生活はまた元に戻ったのであった。

以後も、フランシスのさらなる活躍を期待したい。
[2004/07/10]

アマゾン.jp へ: 猫たちの森Francis (独) / アマゾン.de へ: Francis (独)

原題: Francis (Felidae II)
著者: Akif Pirinçci (ピリンチ)
出版年: 1993

HOME > 書評目次 > 猫たちの森 ‖ 読書の記録
────────────────
(C) Hana 2004 ウィーン今昔物語