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犬に御注意!

猫たちの聖夜』、『猫たちの森』と続くピリンチのフランシスシリーズ未訳の3作目。これまでの作品の中では、これが一番テンポよく書かれていてユニークな登場動物たちの数も多く、一番楽しめた作品であった。
そう、題からもわかるように今回は猫だけでなく犬たちも登場するのだ。連続殺犬猫事件が勃発したのが事の始まりである。

事件について協議すべく犬猫会議が開かれ、犬猫双方とも互いが犯人だとして侃侃諤諤の議論が始まる。しかし結局インテリ猫として名高いフランシスが事件解明に全力を尽くすことでその場はおさまりそうになったのだが、今度は犬側が犬の代表者として元警察犬でシェパードのへクターをごり押ししてきた。しかし誇り高いフランシスは、心から軽蔑している犬族とパートナーを組むことをきっぱりとはねつけ、探偵役を辞退してしまう。

ああそれで題が『犬に御注意!』なのねと思った私は読みがまだ甘かった。

単独で事件を追っていくフランシスは、Cave Canem (ラテン語で犬に注意という意味)と彫られた認識票を首にかけた犬の死体を発見する。インターネット(!)で調べた結果、国連軍の中にユーゴスラヴィア紛争で活躍したエリート犬部隊 Cave Canem (ラテン語で犬に注意という意味) 隊というものがあったことがわかるのだ。
そして、どうやらへクターとその飼い主も Cave Canem 隊と何らかの関わりと持っていたらしい……。

しかしこのへクターがすごくいいヤツなのである。フランシスにさんざん馬鹿にされ、軽蔑されながらも忠実に自分の職務を果たし、何度もフランシスを窮地から救ってやる。それでも決して押しつけがましくない。そんなへクターの口臭には辟易しながらも、フランシスも少しずつへクターに心を開いていく。
ピリンチは猫ファンだと思ったいたのだが、へクターとフランシスの交流を見る限りでは犬を嫌いなわけでもないらしい。お陰で犬も猫も好きな私は、これまでの2倍くらい楽しめたような気がする。またピリンチは本文のあちこちに尾註をつけ、猫のあれこれについて専門的薀蓄をたれているのだが、今回はその範囲が犬にも広がり、それまた中々興味深いものであった。実は犬と猫と熊の祖先は同じであったなどという衝撃的事実(?)も明かにされており、小説外でも驚かされることが多かった。

しかしフランシスとへクターの尽力も虚しくさらなる犠牲者があらわれ、犬猫種族の関係は地域全面戦争勃発寸前まで悪化する。フランシスの機転で全面戦争は何とか回避されるが、犯人は依然として不明のまま。それでも少しずつフランシスとへクターは真犯人に近づいていく……。

ヘクターは犬なので(?)、フランシスほどの機転はきかないのである。しかし、その不器用さを補ってあまりある誠実さがもうたまらない。私は主人公のフランシスよりヘクターにメロメロになってしまった。
最後は思いがけない者が殺犬猫者だが、今回の登場動物から怪しくない者を消していくと後に残る者はそれほどいないので、勘がよければ「こいつが何だか怪しい」というのは小説の比較的最初のうちにわかってしまうかもしれない。
前回、前々回と、登場動物配置が似ていたのでちょっと文句を書いたが、今回はそんなこともなく、トリック具合も犯罪の動機も満足(?)できるものであった。

しかしフランシスのインテリぶりには脱帽。1989年(初回)にもうコンピューターでデータ処理することを学び、今回はインターネットである。一体あの前足でマウスをどう動かせるのか、どうやってキーボードを叩くのか、多少の疑問は残るが、フランシスなので何でも出来てしまうのだろう。またこれまでは全くの脇役だったグスタフ(フランシスの同居人間)の友人、アーチーが大活躍でもあった。いや、本人は自分が活躍しているなどとは夢にも思っていないのだが、いくつも重要な役を果たし、フランシスも大助かり。しかし妙な場面を何度か目にしてしまったアーチーがノイローゼにならないことを祈る。ま、アーチーのことだから大丈夫だとは思うが。

ひとつ不安は、フランシスが少しずつ確実に年老いてきていること。この小説内では現実世界と同じように時間が流れているので、あとどれだけフランシスが生きられるのか、心配でたまらない。しかし今回はフランシスが行きずりの恋の相手に生ませたという外見も中身もフランシスにそっくりな息子が登場。(名前がないので「ジュニア」と呼ばれている。)もしかしたらこの子がフランシスの後継者となるのか? 生意気で父親以上に口の達者なジュニアの将来にも期待したい。

小説の最後はいかにもピリンチ的な終わり方。そうならないように祈っていたのに……。
しかし殺犬猫者への復讐法が前代未聞、画期的で、溜飲が下がった。読んでいて息苦しくもあったが。
[2004/07/10]

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原題: Cave Canem
著者: Akif Pirinçci (ピリンチ)
出版年: 1999

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