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ローマ万歳!

ピリンチによる探偵猫フランシスシリーズの第5弾。このたびフランシスは題にある通り、ローマに向かう。同居人間のグスタフが遺跡発掘のためにローマに呼ばれ、フランシスもそのリュックサックの中に身を潜めてこっそりローマについて行ったのである。そのローマで早速フランシスはまたもや連続殺猫事件へとぶつかり、それを見事に解決するというお決まりの筋書きだが、フランシスも作者のピリンチも疲れ気味だというような印象を受けた5巻であった。

まず話の勢いが衰えてきており、本物のクライマックスがないままダラダラ何とか終わりまで話が続いていくというようなありさまであった。多分ピリンチ自身もそれに気づいてはいるのだろう。ハリウッドのアクション映画まがいのシーンをいくつか挿入し、それでもって場を盛り上げようとはしているのだが、所詮小手先細工といった印象をまぬがれず、低予算B級アクション映画を見ているような気にさせられた。このシリーズの本来の魅力は、主人公フランシスの小気味よい皮肉や専門的(哲学的、考古学的、生物学的、解剖学的……)考察や猫的冒険談にあるのであって、決してランボーまがいの銃撃戦や007的追いかけっこにあるのではない。それなのにあれよあれよという間に別の方向にストーリーが進展していき、呆然としてしまった。

また人間世界の問題や歪みが殺猫事件という形で現れ、それをフランシスが解決するというのがこれまでのシリーズの定型でもあった。つまり自然破壊や動物実験といったテーマが各作品にしっかり設定されており、それに沿った形でストーリーが展開されていたのである。ところが今回はそのテーマ性(問題提起)が希薄に過ぎるため、焦点が定まらない作品になってしまった感がある。

ピリンチの筆力が衰えてきたのではと思わされたのには、批判精神の欠如もある。
フランシスはなんとバチカンにまで潜入し、偶然法王の祝福まで受け、感激に身をふるわせるのである。それに私は驚いてしまった。普段人間の振る舞いの馬鹿馬鹿しさをあれほど皮肉っているフランシスが、あっさりと人間の宗教の宗主に心酔してしまうとはどういうことなのか? それは何かの伏線なのかとも思ったがそういうわけでもなく、法王は最後までフランシスの心のアイドル(?)のままであった。
トルコ生まれでドイツ育ちのピリンチだからこそ西欧の宗教や文化を他の西欧人作家とは異なった立場から見つめ、批判できるのではないかと何となく思ってきていたので、西欧に同化しきっている風なピリンチの姿勢には正直言って失望した。また今回は2001年のツインタワーテロ事件との関わりも出てくるのだが、それにしてもたださらっと過ぎてしまっているだけでなのである。キリスト世界とイスラム世界の衝突、摩擦という点から本書を描けたら、ピリンチの面目躍如たるものがあったのでないかと思うのだが、それもなし。それにもがっかりさせられた。

……期待し過ぎた私が悪いのかもしれないが、今回は本当に肩透かしを食らった気分である。
今回は初めてフランシスが惚れた彼女が殺されないで最後まで生き残り、フランシスは彼女と結婚(!)することまで考えている。ということは、このままフランシスシリーズは終わりなのかなとも思ったり。ま、あまりダラダラと作品の質が落ちていくシリーズを書き続けるより、新しいジャンルや作品に挑戦したほうがピリンチにとってもいいのかもしれない。何年かフランシスシリーズから離れて、別の推理小説を書くのもいいのではないか? 
[2004/07/24]

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原題: Salve Roma !
著者: Akif Pirinçi (ピリンチ)
出版年: 2004

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(C) Hana 2004 ウィーン今昔物語