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ウィーンの小売商

ぺトラ・ライナーという写真家が撮ったウィーンのあちこちの老舗小売店の白黒写真に、ジャーナリストや作家が詩や散文、掌編などを寄稿して出版された本。モデルになっている店はどれも最近のウィーンの商店とは思えないほど古びていて味わいがある店ばかりで、写真を眺めているだけで時代を50年くらい遡った気にさせられる。また店主の顔にもそれぞれ過ぎてきた時代が穏やかに表れていて、そのふとした表情の一瞬が写真におさめられている。ある意味、古きよきウィーンを体現する人々の記録のような写真集である。

店の種類も位置も多岐に渡っていて、ウィーンのあちこちに散らばる肉屋から靴屋からボタン専門店から写真館から小規模映画館まで色々な店が被写体になっている。だが残念なことに、そういった老舗小売店はどこでも後継者難に悩んでおり、巻末の「店紹介」のページには、もういくつかの店舗が畳まれてなくなってしまったと記されていた。また今まだ存続している店も当代限りで終わりという店が少なくないようで、あと10年、20年もすればこの写真集に載っている店はほとんど全部消えているのでないかと思われる。
音もなく消えて行く老舗小売商を惜しみ、せめて最後に残った店とその店主を写真にして残そうとしてくれたライナーに感謝したい。

しかし写真だけでなく、写真に添えられたいくつかの文章も秀逸である。
八百屋だった両親の思い出を綴ったエッセイや、自身の戦後の貧しい少女時代の夢を語った小文、ある日いきなり店仕舞いして消えてしまった仕立て屋とその顧客についての掌編など、現在と過去が交錯するような文章は写真ともよく合っていて、引き込まれるようにして読んでしまった。

この写真集に出ている店のいくつかを、今まだあるうちに自分でも是非訪ねてみたい。私以外の読者もきっと同じようなことを考えたのでないかと思う。
[2004/07/08]

アマゾン.de へ: En Détail

原題: En Détail
著者: Petra Rainer (ライナー)
出版年: 2002

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(C) Hana 2004 ウィーン今昔物語