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ハプスブルクと超常現象

題からして怪しい本である。しかしオカルト大好きな私はこういう本を読まずにはおれない。ワクワクしてページを繰っていくと……。
かなり拍子抜け。と言うのも、著者のプラシュル=ビッヒラーがやたらと科学的に超常現象を解明しようと、或いは科学的な裏付け(?)のある超常現象を描写しようと躍起になり過ぎているのだ。そして「超心理学 (Parapsychologie) 」という単語を「オカルト」の代わりに連発する。「オカルト」は怪しくていかがわしい単語だが、「超心理学」はれっきとした学問だ、というわけである。
私にしてみれば、不思議なことは不思議なまま、うまく説明がつかないがこんなこともあるよ、と語ればいいのにと思うのだが、プラシュル=ビッヒラーは「科学的超常現象」にこだわるあまりに、いくつかのエピソードを無理矢理超心理学的に解釈していかがわしさを倍増させてしまった感がある。

また内容も薄い。ハプスブルクに関する超常現象について1冊の本を書き上げるために色々無理して引っ張ってきたテーマがいくつも見られるため、読み甲斐のない章が随所にある。例えば4章の『ノストラダムスの予言』では、ハプスブルク家に関するノストラダムスの三つの予言について解釈されているのだが、その関連付けもこじつけ気味、解釈にも説得力が欠けているのでちっとも面白くない。元々私はノストラダムスの予言なんて信じちゃいないので(1999年に地球は滅亡しなかったし)、余計に抵抗を感じたのかもしれないが。この内容の薄さは、文献リストの短さ(A5でたったの3ページ弱)にも表れているような気がした。
それからその前の3章では、中世のハプスブルク家に関する予言についてページが割かれているのだが、それもかなりおざなりだった。特にルドルフ一世が自分の死を予期して故郷に旅をしている途中に亡くなったからという理由で「ルドルフ一世には霊感が備わっていた」と断言してしまうその単純な理由付けのどこが科学的なのか?オカルト好きを自称する私も納得できない牽強付会ぶりである。
また2章のテーマは王宮やシェーンブルン宮殿にちょくちょく現れる正体不明の白い影なのだが、それについて本書で紹介されているのは目撃談ばかり。科学的超心理学を標榜しているわりには、その裏づけが甚だ軽視されているような。(だからこそ、「こんな不思議な現象を複数の人々が体験した」で済ませられる「非科学的」かつ「前近代的」な形で怪奇譚を語ればよかったのに……と思わずにはおれなかった。)

こんな風に前半はかなりガッカリな内容だったのだが、後半になって少し盛り返す。
6章のテーマ『皇后エリザベート』は中々面白かった。とは言え、彼女が幽霊になってあたりを飛び回った話が語られているのではなく、彼女自身が生前怪奇現象に異常なほどの興味を示し、いかにあの世とのコンタクトを取ろうとしたか、どれほど自分の霊感の強さを確信していたのか語られている。そういったエリザベートの特殊な性癖については『皇帝と二人の花嫁』でも少し読んだが、余程現実生活に退屈していたのだろうと思わされる変人ぶりである。
一例を挙げると、40代の頃の彼女は亡くなった詩人のハインリッヒ・ハイネにぞっこん惚れこんでしまった。そこで霊界のハイネとコンタクトを取るため、エリザベートは様々な方法を試み、しまいには自分がいつでもハイネを呼び出せるようになったと信じ込んでいたそうである。それだけではない、エリザベートはハイネが自分のに乗り移って自動書記で新しい詩を書き続けていると確信していたのだ……。それが素人目にも明らかなほどお粗末な詩で、ハイネの生前の作品とはかけ離れていることは著者のプラシュル=ビッヒラーもさすがに認めていたが。
このようにエリザベートのあの世への関わり方がこの章では具体的に語られており、彼女の不安定でヒステリックな性格の一端が垣間見えたようで興味深い内容であった。そしてこの章は、彼女自身が幽霊になったところで終わる。

このエリザベートの霊は彼女が亡くなった時侍女の一人に目撃されただけだが、その息子で自死した皇太子ルドルフは死後も様々なポルタ―がイスト現象を起こして人に迷惑をかけたそうである。またその死に場所となったマイヤーリンクの館は後にカルメル修道女たちに下げ渡されて修道院となったのだが、ある時この修道院が経済的に困窮してもはや外部の金銭的援助なしには閉鎖せざるを得ない状況に陥った。そこで亡きルドルフの霊(らしき存在)が、説明のつかない方法でハプスブルク家の家系図(つまり修道院に寄付金をくれそうな親類縁者のリスト)を置いていったそうだ。その後何が起きたのかは記録されていないが、今でもこのカルメル修道院が存在しているところをみると、ルドルフの霊は確かに修道院存続に尽力したのだろうと、プラシュル=ビッヒラーは締めくくっている。
このエピソードが本当なのかどうか何の裏づけもないが、そうやって淡々と語られている話のほうが逆に真実味を帯びているような気がする。

そのルドルフの次には、娘のエリザベート(つまりフランツ=ヨーゼフとその妃エリザベートの孫にあたる大公妃、彼女に関しては『エリザベート ― ハプスブルク家最後の皇女』を参照のこと)について語られる。この人も父と祖母に似てオカルト好きだったようで、当時の有名な超心理学者に弟子入りしてポルターガイストの研究に熱心に取り組む。結局はひどくなっていく心霊現象に恐れをなしてそこから逃げ出してしまうのだが。

本当に面白いのはこの後から。11章から14章まではハプスブルク家最後の皇后ツィタの手記を主なソースとして語られている。この手記というのがこれまで公開されたことのないもので、本書で初めてハプスブルク家から(多分総領息子のオットーから)その許可が下りたという貴重な情報なのである。
ツィタは自らが体験した不思議な現象を、特に強い感情も交えず比較的客観的に淡々と書き記していく。シェーンブルン宮殿に棲みついているらしいヴィルヘルミーナ・アウエルスペルク(マリア=テレジアの夫、フランツ=シュテファン公の愛人だった女性)の霊の話や大公夫妻の館のポルターガイスト現象などについて。
皇后ツィタの気丈な性格や落ち着いた記述から察するに、これらは本当にあったらしいことと思いたくなるが、果たして真相やいかに。怖がりな私は、ここらへんから夜一人でトイレに行けなくなってきたが。

本書は大まかにわけて幽霊とポルターガイスト、予言話から成り立っており、純粋に幽霊話だけを期待していた私はそこでちとがっかりさせられた。予言話は上でも書いた通り、どれもこじつけっぽく何が本当やらさっぱりわからぬ。ポルターガイストのほうは本当っぽくはあるのだが、何せ実体がない(主に音ばっかり)なのでちょっとスリル(?)が足りないといったところか。しかし皇后ツィタが、屋敷で乳母が自分の名前を必死に叫んでいる声を聞いた気がして、何度も夜中に子供部屋まで真っ青になって駆けて行くエピソードにはゾッとした。人騒がせな霊だ。
こういう題の本は内容がアレでもそれなりに売れるだろうから、そのうち日本語訳が出るかも。

ディープなオカルトファンには物足りないが、ちょっと怖い気分を楽しみたい人にはお薦めの1冊。[2004/01/28]

アマゾン.jp へ:Die Habsburger und das Übersinnliche
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原題: Die Habsburger und das Übersinnliche
著者: Gabriele Praschl-Bichler (プラシュル=ビッヒラー)
出版年: 2003

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