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20世紀のドイツ語

ブラウンによる『現代ドイツ語の傾向』と同じく、最近のドイツ語の特徴について解説している本。
ただ、たかだか250ページ強の本の中に広範な情報をギュウギュウに詰め込んである『現代ドイツ語の傾向』とは異なり、絞られたテーマについて比較的平易な文章で例を多用して解説しているので内容が理解し易い。

特に、現代ドイツ語の文構成の大きな特色のひとつである名詞文体 (Nominalstil) についての記述がわかりやすい。名詞文体とは大雑把にいえば、文中動詞を名詞化することで従属文を主文の中に組み入れてしまうことである。例えば
Er kann heute nicht kommen, weil es regnet.
この文章の従属文である “weil es regnet” を前置詞 wegen を用いて名詞化し、主文の中に入れてしまう。すると、
Er kann heute wegen des Regens nicht kommen.
となるのである。ただ “wegen des Regens” が主文に入っただけなら簡単でいいのだが、今日ではやたらに複雑な形の名詞文体が流行っているのが問題でもあるという。というのも、“weil”、“obwohl”、 “trotzdem” などの接続詞によって明らかだった主文と従属文の関係が、名詞文体においては見えにくくなってしまうからだ。

インターネットで拾ってきたオーストリアの憲法の一文を悪文の例として挙げてみると
Die Volksanwaltschaft kann den mit den obersten Verwaltungsgeschäften des Bundes betrauten Organen Empfehlungen für die in einem bestimmten Fall oder aus Anlas eines bestimmten Falles zu treffenden Masnahmen erteilen.
なるべく短い文章内に多くの情報を詰め込もうとしたせいで各文肢の関係が非常に見えにくい。つまりどの要素がどこにかかるのか、ぱっと読んだだけでは頭に入ってこないのだ。これを従属文混じりの文章に書きかえれば、文そのものは長くなるが、接続詞によって文の繋がりが見えやすくなるおかげで内容もわかりやすくなる。そこを敢えて動詞派生の名詞を多用し、各名詞ブロックの繋がりの見えにくい、短めの文章を書くことが現在の文語体の流行りなのである。

この名詞文体について、ブラウンの説明ではどうもピンと来なかったのだが、エッガースは名詞文体の大きな流れを俯瞰する形で説明してくれているので、理解が楽であった。またこの名詞文体と機能動詞構造 (Funktionverbgefüge) も関連付けて説明してくれているので、現代ドイツ語のひとつの大きな流れがつかめるようになっている。(ブラウンはこのふたつの現象について、全く別々の章で個々に解説しているので、私の頭の中では両者がうまく繋がらなかった。)
機能動詞についての解説はもう面倒になってきたのでここでは避けるが、普段何も考えずに使っていたドイツ語の一用法に、こういう流れが隠れていたのか、と今更ながらびっくりした次第。水中に頭を突っ込んで、氷山の一角を支えている底辺部分を覗き見た気分になった。

上でも述べたように本書の内容は、上記で何度もふれた『現代ドイツ語の傾向』ほど多岐に渡っているわけではないが、その分わかりやすいので『現代ドイツ語の傾向』を補完するような形で読むのが理想的ではないかと思った。本書の日本語訳も出ているようなので、ドイツ語に自信のない人はそちらを読んでみてもいいかもしれない(下記参照のこと)。
[2004/06/16]

アマゾン.de へ: Deutsche Sprache im 20. Jahrhundert

原題: Deutsche Sprache im 20. Jahrhundert
著者: Hans Eggers (エッガース)
出版年: 1973
日本語版
翻訳者: 岩崎 英二郎
出版社: 白水社

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