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ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団

日本語訳はまだ発売されていないが読了してしまったので、突っ込んだ内容の感想を書いておく。最後まで話の筋を書いているので、ご注意あれ。

これまでの鬱屈が溜まっているのはわかるが、ハリーはしょっぱなから荒れ気味である。その気持ちわからんでもないが、当たられるロンとハーマイオニーはいい迷惑でないの?しかしこれはビルドゥンクスロマンでもあるので、ハリーが成長していく過程でこういうこともあるのよ、ということか。

今回の魔法防御の先生は魔法省から派遣されたアンブリッジという中年女性なのだが、ダメダメ。私は彼女を羊の皮をかぶったサドと形容したい。女らしい意地の悪い陰険さが、スネイプ先生のそれの上をいく。彼女と比べると、スネイプ先生がストレートで正直に見えてしまうほど。ハリーがまたこの先生の挑発に乗り過ぎなのである。どんどん短気になっていっているハリーだが、ヒーローがこんな調子で大丈夫なのか?一抹の不安を感じる。
おまけにモルフォイの挑発に乗った現場をアンブリッジに抑えられ、ハリーはロンの双子の兄、フレッドとジョージと共にクウィディッチのチームから外されてしまう。その代役シーカーとして入るのがジンジャー。ロンもキーパーとしてレギュラー入り。5巻ではクウィディッチまで詳しく語っていられないので、取り敢えずハリーは一試合だけさせればいいやという、ローリング女史の苦肉の策らしきストーリー展開であった。

私の好きなルーピン先生は早くも3章で登場。しかし相変わらず疲れた顔してヨレヨレということで、先生の健康状態が気になる。白髪も増えたらしい。そのルーピン先生と共に、本物の魔眼ムーディー登場。しかし4巻で魔眼を無断使用されて以来、魔眼の滑りが悪くて難儀しているとか。
その後やっとハリーの亡父の親友、シリウス・ブラックが現れる。だがお尋ね者のシリウスは家の中に閉じこもりっきりで、欲求不満気味。おまけに仇敵スネイプ先生がそれについてチクチク嫌味を言うものだから、かなり頭にきている模様。

5巻の途中でこのスネイプ先生とハリーの亡父、ジェイムスとの確執の一部が具体的に明らかになるのだが、ハリー父がかなりのお調子者で傲慢で、ハリーはがっかり。「なんで父ちゃんあんなに馬鹿っぽいのか」「その父ちゃんがどうやって優しくて正義感の強い母ちゃんと結婚できたのか」とかなり悩む。第三者の私から見ても、スネイプ先生が過去を根に持つのは当然のように思えるので、ハリーの煩悶は最もなことだと思う。
ただ、両親の生き方に疑問を持ち、一度はそれを真っ向から否定するという行為は、成長途上の子供にとって必要不可欠な通過儀礼であるわけで、両親を亡くしたハリーはそれを少し違う形で経験しているのかなと思ったりもした。もう15歳なんだし。

そんなわけでハリーは、シリウスの考え方にもちょっぴり疑問を持ったりする。もう一人のハリーの父代わり、ダンブルドアは今回ハリーにとてつもなく冷たい。ハリーと視線を合わせようともしない。それにも理由があるらしいのだが、その理由がハリーには知らされず、それがハリーをさらに苛立たせる。
色々腹を立てることが多い5巻である。

そんなイライラハリーの唯一の慰めが、レイヴンクロー寮のチョウ・チャン。4巻で彼氏のセドリックを亡くして情緒不安定なチョウ・チャンだが、何かにつけてハリーに思わせぶりな態度を示す。
だが、このチョウ・チャンは、ネガティブな意味で非常に女の子らしい女の子なのである。理性より、感情が勝っている上に直接モノを言わないタイプ。従って、彼女の気分が安定している時は気持ちよくつきあえるのだが、ひとたび不安になるとハリー相手に心理的駆け引きをおっぱじめる。女(の子)と言えば、ハーマイオニーとジンジャーとペチュニアおばさんしか知らないハリーは、そんなチョウ・チャンに振り回されてしまう。青春真っ只中ですよ。
小姑的観点から「そんな子はやめときなさいよ」と言いたくて、私はウズウズしてしまった。結局2人の仲は自然消滅してしまってホッ。
私の勝手な予想だと、ハリーはロンの妹ジンジャーとくっつくはず。ジンジャーのほうは、本書では一時のハリーへの思慕を忘れ、彼氏を見つけて学校生活をエンジョイしていたのだが、その彼氏ともあっさり別れてまたフリーになってしまった。この2人がある時ハッと雷に打たれたように互いの魅力に気づいて、パッとくっつくのではないかと私は思っているのだが、いかがなものか。でも案外ネヴィルとジンジャーがくっつく可能性もなきにしも非ず。

女の子と言えば、1人新しい登場人物がいた。ジンジャーと同学年で、レイヴンクロー寮のルナ・ラヴグッド (Luna Lovegood)。もう名前からして……な彼女だが(ルナはローマ神話の月の女神の名前だが、西欧世界の月には否定的なイメージがある。lunatic [狂人]や lunacy [狂気]など、Luna の派生語を見ればそれがよくわかる)、その名前に違わずかなりエキセントリックな人物だ。しかし5巻では、夢見心地ながら結構活躍してくれる。10章の題が彼女の名前そのまま「ルナ・ラヴグッド」となっているので、これから重要な役を担う人物でないのかと深読みしてみた。
6巻以降のさらなる活躍と変人ぶりを期待しよう。

このハリー・ポッターシリーズの魅力は、固有名詞や呪文が暗喩として使われているところにもある。
例えば光を灯す呪文 Lumos はラテン語の lumen (光)から来ているし、守護獣を召喚してアズバカンの看守ディメンターを蹴散らす呪文、Patronus もラテン語の patoronus (パトロン、又は守護聖人)から取られたのだと思われる。ディメンター (Dementor) はと言えば、やはりラテン語の dementia (精神耗弱、痴呆)から派生した単語だろう。
私がなるほどなと唸ったのは、ルーピン先生の名前。Lupin, Remus J. の名字、ルーピンは狼を意味するラテン語の lupinus, lupus から来ているし、名前のリーマスは、古代ローマの伝説上の始祖の名前なのである。このリーマスは双子の兄弟ロムルスと共に狼に養育されたということになっていて、元々は「櫂、オール」という意味の単語だったのだ。……さすが人狼、本当に狼尽くしである。しかしセカンドネームの J は何を表すのか、それもちょっと気になったり。(と思っていたら、ただの John だって。な〜んだ。)
そのルーピン先生の親友、シリウス・ブラックの名前もそれなりに意味深だ。シリウスは大犬座の首星の名前で、天狼星という別名でも呼ばれている。これまたシリウスが変身できる犬に関連した名前なのだ。(名字のブラックは、黒犬の「黒」?)シリウスの語源は、ラテン語及び古典ギリシャ語の seírios (赤々と輝いている)という語。
悪の首領 Voldemort はフランス語源(死を奪う、死の飛翔)だという説をネット上のハリー・ポッター語源辞典で読んだが、私が購読している新聞には Malvolio (悪意、シェイクスピアの『十二夜』にも同名の嫌われ者的登場人物がいる)、Malocchio (イタリア語で悪意のある視線)から作られた造語でないかという説も載っていた。色々な説があり、それはそれで面白い。
私はラテン語や古典ギリシャ語に疎いので、こういった固有名詞の意味も何となくしかわからないのだが、そんな私でも中々楽しめる。だが逆にラテン語勉強しときゃよかったな、と残念な気分にもなる。余談だが、日本語訳では大抵の固有名詞を片仮名のままにしているようで、それはちょっと勿体無い話じゃないかとも思ったり。人の名前は片仮名でいいだろうが、それなりの意味が隠された動物名や魔法名はその意味を汲んで日本語にしてみるべきではないのか。片仮名のままだと、日本人には折角の意味が全く通じない。それじゃ面白さ半減である。瀬田貞二氏だったら妙訳、名訳を色々考え出してくれたんでないかな。

そう言えば最近『ハリー・ポッターと賢者の石』のラテン語訳が発売されたそうで、ラテン語やり直そうか……とちょっぴり本気で考えてしまった。

さて、5巻では誰かが死ぬという噂があったので、ロンかハグリットか……と心配していたのだが、実際あの世行きになってしまったのはシリウスだった。それが変な死に方で、妙なカーテンの向こうにツーと滑って行ってしまって、反対側から出て来なくて終わり。何でそんな死体も残らないような死に方なのか、とんと理解できなかった。ローリング女史は「子供の読者にも死というものを知らしめたい」とか何とかコメントしていたように思うが、そんな不自然な死に方には大人の読者の私が納得できなかった。それともこの死に方が次回への伏線となるのか、そう願いたいところだがわからない。
しかしよりによってなぜシリウスが……と号泣。両親を亡くした上、父代わりの人をまた亡くすなんてハリーが不憫すぎるではないか。ならまだハグリットが死んでくれたほうがよかったような、というのが私の正直な感想。
その後ハリーがほとんど首無しニックに希望をこめて「どうやったら人は幽霊になれるの?」と尋ねる場面ではもう涙涙涙で、字が読めなかった。しかしここでシリウスが甦ったら妙な話になっちゃうな、でもシリウスには戻ってきてほしいな、と煩悶していたのだが、結局シリウス甦らず。それはそれで悲しくてまた慟泣。
ルーピン先生も結局親友を3人失ったわけで、残りは自分1人。それも可哀想でまた泣いた。ルーピン先生には是非最後まで生き残ってほしい……。

個々のエピソードは面白かったのだが、全体的には長過ぎ、複雑過ぎた感がある。果たしてそこまで物語を絡み合わせる必要があったのか?その起因となったダンブルドアの秘密主義の理由も最後で明らかにされるのだが、腑に落ちない部分もあったような……。
また、冒頭でハリーが不死鳥騎士団の本拠地に留まる部分やハグリットの冒険話、ケンタウロスのアレコレなどは冗漫で、そこまで延々と話を引き伸ばさなくてもよかったのではとも思った。特に最後のゴタゴタは延々4、5章くらいに渡って描かれていて、いくら何でも長過ぎである。ローリング女史は、見栄えのいいシーンを映画のために今から準備しておいているのか、と穿った見方をしてみたくなるほど。折角ハラハラドキドキできる場面があれじゃ台無しである。中島らもの『ガダラの豚』の最後みたいなドタバタぶりだった。

でも次回作がどうなるのか、やっぱり気になる。それからハリーのOWLの試験結果も気になる。
また現在撮影されている実写版ハリー・ポッターのシリーズ3作目では、シリウス・ブラック役をゲイリー・オールドマンが演じるそうだが、ルーピン先生役はデビッド・シューリスだそう。私はデビッド・シューリスなんて知らないのだが、果たしてカッコいいのか、それだけが気になる。本当のところ、キアヌ・リーブスにルーピン先生役を演じて欲しかった……。ゲイリー・オールドマンの演技は今から楽しみ。
それから第5巻を映画化する際には、ちょっといっちゃっている Death Eater (訳語がわからないが、ヴォルデモート卿隠れ応援団のこと)の紅一点、ベラトリックスの役を是非グレン・クローズに演じてもらいたい。彼女なら、主役を食っちゃうくらいの勢いでベラトリックスを怪演してくれることだろう。

まぁえらそうな文句も書いたが、又もやハリー・ポッターに夢中にさせられたことは確か。結局私は本書を2回続けて読んでしまった。一度目はとにかくストーリーの先が気になって、わからない単語を辞書で調べるのもそこそこにページをめくり続け、最後は放心。しかし6巻は未刊行で先を読めないし、それでもホグワーツのあの雰囲気にもっとひたりたいというわけで、5巻をじっくり味わいながら読み直した。……こんな風に2度読みをした本は初めて。やっぱり魅力満載の本だなぁと溜息をついてしまった。
[2004/03/29 初 ‖ 04/05 改]

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原題: Harry Potter and the Order of the Phoenix
著者: J. K. Rowling (ローリング)
出版年: 2003
日本語版
翻訳者: 松岡 佑子
出版社: 静山社

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