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裏稼業

人にもらった本。グリシャムの本は米口語ばっかりできっと私には読めないだろうと思いつつもチャレンジ。
案に相違して、読みやすい英語で書かれていたのでわりにスラスラと読めた。ま、これも大衆文学なので、あんまり小難しい英語で書かれていたら売れ行きが悪くなるからかなとも思ったり。

グリシャムの小説はどれも設定からして変わっているが、この小説も最初から一味違う。主人公は、(比較的)軽犯罪者を収容している刑務所に服役している3人の元判事たちなのだ。彼らは自分たちの前歴を生かして、刑務所内でも囚人たちのトラブルを解決する調停役を勤めている。しかしそれは表向きのことで、実は刑務所内からホモ雑誌のペンパル募集コーナーに投稿しては、社会的地位が高く富裕なカモを釣り上げ、何度か手紙を交わした後その手紙をネタに金を強請り取るという犯罪を繰り返している。
しかしある日釣り上げたカモが大物中の大物、次期大統領選挙の本命、アーロン・レイクであったのだ。そのレイクを影から補佐しているCIA長官が、レイク自身よりも先に彼が恐喝されている事実を知り、刑務所の3人相手に駆け引きを始める……。

これまでのグリシャムの作品では大抵、颯爽とした弁護士や法律関係者が主人公で、法律や裁判の細かいトリックや丁々発止のやり取りが魅力的だったと思うのだが、今回はかなり毛色が違う。まず主人公は冴えない中年の元判事たちで、刑務所内からホモを恐喝中。対する大統領候補のレイクは見栄えよくスマートで渋い白人男性だが、(CIA長官との密約を守り)軍事予算を大幅に引き上げる公約を掲げて選挙戦に挑み、予備選挙にどんどん勝っていく。つまり、彼にとっては政治家としての信条や政策より何より、「大統領になる」ことが最大の目標なのである。そのレイクを全面的にサポートするCIA長官のテディ・メイナードはレイクを勝たせるためには殺人やテロも厭わないという冷酷な策士だ。
つまり、本書には読者が共感できる登場人物が出てこない。正義の味方不在のグリシャム小説なのである。

本書の評価はグリシャムの作品中かなり低いようだが、その理由は上に書いたような主要登場人物のモラルの低さにもあるのでないか。正義の味方不在の小説が悪いわけではないが、グリシャムファンとしては最終的に正義の鉄槌が下される過程を描いた小説が読めることをはなから期待してしまっている。その期待が裏切られてしまったために、この小説に対する評価も必然的に下がってしまったという気がしないでもない。
ストーリーそのものは中々面白いと思ったが、最後は尻すぼみ気味であった。わざわざ刑務所内にスパイを送り込み、元判事3人組が汗水たらして(?)強請り取った金を他の銀行口座に移させた意味も不明だし、その後3人組とCIAが取り引きを始めてからは特にこれといった大ハプニングも何も起こらず、そのまま素直に最後はハッピーエンド。何ともひねりに欠ける終わり方であった。

また本書は前回の大統領選挙(ブッシュ対ゴア)を意識して書かれたということだが、それにしては風刺や皮肉もあまりきいていない。ハンサムな大統領候補が実は隠れホモで、彼のサポーターたちは大騒ぎ。これだけでは政治のバカバカしさも政治家たちのダメぶりも大して伝わってこない。ただ、軍事費の大幅アップを公約にしてどうやって大統領選挙を勝っていくのか、この点は非常によく書けていたと思う。それを軸に別の方向に話が向かっていたらもう少し面白くなっていたんでないかと、それがちょっと残念。

グリシャムの作品で映画化されていないのは、本書くらいのものだったりするのでないかと思うが、それも頷ける。普通の小説としては悪くないのだが、グリシャムの小説としては不出来だと思った。
[2004/06/13]

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原題: The Brethren
著者: John Grisham (グリシャム)
出版年: 2000

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