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現代ドイツ語の傾向

題の通り、現代ドイツ語の特徴や変化の傾向について概説してある本。それなりにドイツ語の読み書きを身につけ、何となくドイツ語がわかったような気になってきた人向け。
本書は多角的にかつ多面的に、豊富な例を引き合いに出して現代ドイツ語について解説してくれているので、ドイツ語の大まかな全体像が掴める。これまで特に何も意識せずに、使ってきたドイツ語のアレコレにこんな意味があったのかと思わされる1冊である。

本書のテーマは大まかに3章に分けられている。1章ではドイツ語の豊富なバリエーション(標準語、方言、日常語、文語、専門語……)について、2章では現代ドイツ語における文法的傾向(時制、能動態と受動態、接続法の用法、単語の変遷……)について、そして3章では1945年以降のドイツ語の歴史について語られている。
こうやってみると、特に2章の内容は普通の文法書のそれと変わらないのではと思う人がいるかもしれないが、そうではない。というのも、著者のブラウンは文法的説明はそこそこに、ある事項の過去の用法と現代のドイツ語に見られる変化、さらにそれを「ドイツ語の乱れ」とする専門家の批判及びその批判に対する反論を論理的にまとめているのだ。

例えば基本文系の変化について (2.2.2. Satzstruktur: Veränderungen von Satzmodellen) 。ドイツ語の基本文系にはいくつかパターンがあるのだが、そのうち特に「主語−述語−対格(=四格)−対格」というタイプにちょっとした変化が見られるという。対格をふたつ取る動詞というものはそもそもあまりないのだが (lehren, kosten, abfragen, abhören ...) どうもこの形はドイツ語を母国語とする人間にとっても座りが悪いものらしく、特に話し言葉においてこれらの動詞は避けられる傾向にある。また、対格のひとつを与格(=三格)に置きかえるケースもまま見られるようなのだが、それが公式に認知されているかといえば怪しいところらしい。というのも、Duden の文法書は1966年に出版された2版だけが、特に kosten と lehren においては主語−述語−与格−対格という文型を間違いとは見なせないだろうと書いているのだが、4版ではその記述がまた消えて「まぁそういう傾向があるよ」となり、私が持っている6版でもその曖昧な記述はそのままである(691-692ページ)。
それで合点がいったのだが、私は一度カッコつけてドイツ語で「Es dünkt mir ...」と言ってみたことがある。勿論事前に辞書で下調べをして、それが間違いではないことを確かめていたにも関わらず、その場で「Es dünkt mich ...」が正しい、と訂正されてしまったのだ。再度辞書を調べてみたが、小学館の独和大辞典には dünken は対格を取っても与格を取ってもよろしいと書いてある。そこで「はて……」と私は混乱してしまったのだが、今になってその謎が解けた。日本の辞書は、こういった変な(?)動詞が与格を取ってもいいと、既に認めてしまっているのである。試しに lehren, kosten, abhören, abfragen の四動詞を郁文堂独和辞典と小学館大独和辞典で調べてみると、時々カッコ付きではあるが与格もOKとなっている。「あら」と思って今度は Duden の Deutsches Universalwörterbuch を見てみると、kosten と abfragen は与格もOK、lehren と abhören は対格のみ、dünken はたまに与格も見られるというてんでバラバラな記述になっている。
要するに、今が過渡期なのだろう。

勿論専門家でない限り、こんなことを知ったって大した役には立たない。
だが、それでも本書を読むとドイツ語に対する理解が深まったのと同時に、ドイツ語の感覚というものも少しは鋭くなったような気になれる。外国語を学んでいっても、中々言葉そのものの機微まで感じ取れるようにはならない。それをある程度補ってくれるのがこういった本や文法書なのである。いくらネイティブスピーカーに尋ねても「何となく……」という答えしか返って来ない疑問や、日頃から何となく感じていた矛盾に、こういった本は明確な答えや体系的な理由を提示してくれる(ことが多々あるのだ)。
内容がかなり専門的なので読み進むのは難しいかもしれないが、それでもドイツ語を極めたい、あるいはもっとドイツ語について知りたいと思っている上級者には是非お薦めしたい1冊である。

また絶版になっているようだが日本語訳も出ているらしいので(下記参照のこと)、日本語訳を古本屋や図書館で探して読んでみるのもいいかもしれない。ただこういった専門的な本は、よっぽど訳が上手でないと内容が意味不明になってしまっていることが多々ある。そんなわけで、難しいかもしれないが原文で読んでみたほうが案外内容は理解し易いかもしれないと思ったりもした。
[2004/03/07]

アマゾン.de へ:Tendenzen in der deutschen Gegenwartssprache

原題: Tendenzen in der deutschen Gegenwartssprache
著者: Peter Braun (ブラウン)
出版年: 1998(第4版)
日本語版
翻訳者: 橘 正美/高橋 行徳
出版社: 明星大学出版部

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