HOME > 書評目次 > ハプスブルクの女たち ‖ 読書の記録

ハプスブルクの女たち

原題は『ハプスブルクの売られた娘たち』となっている。著者が前書きで書いているように、政略結婚であちこちに無理矢理嫁がされ、ハプスブルク家外交政策のいわば犠牲者となった女性たちの記録である。それでも彼女たちは自らの運命を嘆きながら人生を諦めてしまったわけではなく、嫁ぎ先の或いは実家の利益のために全力で戦い続ける。その中で大勝利を収めた者もいれば、刀折れ矢尽きボロボロになって死んでいった者もいる。
いずれにせよ、ハプスブルク家に少なからぬ貢献をしながらも、歴史の中で忘れ去られてしまった6人の女性たちの生涯を著者のライトナーは丁寧に掘り起こし、語っていく。その内訳は1章から順に:

この中には術謀外交に長けている者もいれば、真正面から体当たりをしてははじき返されて何度もつまずく者もいる。それでも彼女たちに共通しているのは、その粘り強さであり、強靭な精神力であり、実際的な学習能力である。同じ両親から生まれた兄弟たちが帝王学を授けられ、将来の支配者として教育されてきたのに対し、彼女たちの多くは花嫁教育と語学教育しか受けていない。それでも父や兄弟や夫を援けながら、彼女たちはヨーロッパの政治に積極的に関わり、少なからぬ成功を収めるのだ。
ハプスブルク家繁栄の秘密は「幸いなるオーストリアよ汝、結婚せよ」の有名なスローガンだけにあるのではなく、稀にではあるがマリア=テレジアを筆頭とした外交感覚に恵まれた女性たちが生まれてきたことにもあるのではないかと思わされる。

特に私が興味深く読んだのは、最終章で描かれているレオポルディーネの生涯であった。『奈落の底へ』という副題の通り、彼女の人生は結婚を頂点にどんどん下り坂をたどっていき、しまいには29歳という若さで故郷のウィーンを夢見ながら異国ブラジルで亡くなってしまう。
しかし彼女の業績は目覚ましいものであった。無知で粗野で色情な夫のドン・ペドロ一世を励ましながら、夫の祖国ポルトガルに反旗を翻し、わずか数年でブラジル独立の礎をしっかりと作り上げる。(ブラジル独立の実際の立役者はレオポルディーネ自身であったのに、現在では一般的にその夫の名前しか語られないというのも皮肉な話である。)にも関わらず、夫には疎んじられ、その愛人からは苦しみと辱めを受け、精神的肉体的苦痛と貧困の中で彼女は死んでいくのだ。彼女の名前は故郷オーストリアではすっかり忘れ去られてしまっているが、ブラジルでは今でも「建国の母」、「独立の聖女」、「民衆の守り神」などとして深く敬われているという。

本書は、ハプスブルク家の歴史の一局面として読んでも、女性史の一環として読んでも面白い本である。
ひとつだけ残念だったのは、なぜか参考文献が全く挙げられていないこと。こういった本を読む上では、文献リストの中から面白そうな本を見つけることも楽しみのひとつなので、何だか物足りない気分にさせられた。
[2004/02/15]

アマゾン.jp へ:ハプスブルクの女たち
アマゾン.de へ:Habsburgs verkaufte Töchter

原題: Habsburgs verkaufte Töchter
著者: Thea Leitner (ライトナー)
出版年: 1987
日本語版
翻訳者: 関田 淳子
出版社: 新書館

HOME > 書評目次 > ハプスブルクの女たち ‖ 読書の記録
────────────────
(C) Hana 2004 ウィーン今昔物語