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馬車とプーバッグ

プーバッグは、Pooh-Bag と書く。しかしこれは、イギリス出身で現在は世界各地のディズニーランドに生息し、ロバやトラやブタと交流関係にあるあの有名な黄色いクマとは何の関連もない。このバッグの対象(動)物はクマではなくてウマなのだ。

ヨーロッパの古都ウィーンのイメージとして必ずと言っていいほど、二頭立ての馬車が出てくる。これはウィーンの人気観光アトラクションのひとつだが、その古めかしいロマンチックさにため息をついているとどこからともなく漂ってくる香ばしいニオイによって現実に引き戻される。いやむしろ、わしづかみにされて鼻の下にアンモニアをつきつけられるというところか。
……馬糞のニオイがあたりにもうもうと立ちこめているのである。映像や写真からは嗅ぎとれない、生のウィーンの空気がそこにある。特に馬車のたまり場となっているシュテファン広場のあたりの空気は濃密だ。(にも関わらず、真夏にアイスを食べながらそこらを闊歩している勇者もいる。酪農家出身か、はたまた鼻づまりなのか、鈍感なのか、詳しい事情は不明。)

これまでにも、ウィーン市と市の清掃課(MA48)は糞害対策に頭を悩ませてきた。周遊する馬車の数を減らそうと、偶数ナンバーと奇数ナンバーの馬車の活動日を曜日ごとにふりわけたり、シュテファン寺院で客待ちをしていい馬車の数を制限したり(現在は24台)はしたのだが、どれも著しい効果をあげず、他方で市民やあたりの商店からの苦情は止まない。そんな中、馬にも人にも優しく安上がりな馬糞対策が発表された。それがプーバッグなのだ。

プーバッグとは、馬のお尻に取り付けられたつぶれたお椀型の容器のことで、馬が用を足す時には大も小もそのお椀の中にしてしまえるという優れものだ。(しかしオス馬の小は多分道路に垂れ流しだろう。)これで道路は清潔なまま、ニオイもあたりに発散せず、全ては丸くおさまりめでたしめでたし……とMA48はほくそえんだのだろうが、コトはそう単純なものではなかった。
当の御者たちが、プーバックの導入に大反対なのだ。その理由もなるほどとうなずけるものから、眉唾ものまで色々ある。いくつか例を挙げてみると……
     ・ プーバックを取りつける皮具が馬に余計な負担をかけ(あせもや擦り傷など)
     ・ またプーバッグそのものも馬の歩調を乱してストレスの原因となる
     ・ さらにプーバッグ自体がニオイの元となり、御者と客はたまらん
     ・ プーバッグがいっぱいになって、中身があたりに飛び散ったりする
     ・ いちいちプーバッグを空にするのが面倒だし、中身が自分にひっかかったりして厄介
     ・ 発情期のメス馬がお尻に当たるプーバッグに変な気にさせられてちょっとアレ
     ・ 排泄物がプーバッグに命中しないこともある。その場合被害を被るのは御者

結局このプーバッグは2004年から義務として課されることになったのだが、それには御者だけでなく動物愛護団体も反対している。プーバッグは上記のような理由から動物虐待に当たるというのだ。しかし、若いうちは競馬で走らされ、年を取ったら雨の日も風の日も馬車引き、それにも役に立たなくなったら肉屋に売られる運命にある(だろうと想像される)馬たちを観光アトラクションにしたてているのも虐待ではないのかと考えてしまうが、これは論理のすり替えか。
行政側の言い分は、このプーバッグはシェーンブルン動物園の馬たちによって実験され、問題なしという結果が出たので動物虐待には当たらないというものである。しかしシェーンブルン動物園の馬たちは、緑の中を3時間プーバッグをつけて歩き回っただけなので、町中の労働馬たちとは条件が違いすぎるという批判もある。

いずれにせよ、決定は下されてしまった。
来年初頭のプーバッグ全面義務化までの移行期として、現在はプーバッグ着用か馬糞清掃料納付を御者が各自選べるようになっている。しかし7月に行われた検査では事前に検査の日時が予告されていたにも関わらず、15台の馬車のうち、たったの1台しか馬にプーバッグを着用させていなかった。残りの14台はプーバッグ無し、馬糞清掃料も未納という事態が発覚して、罰金を科せられた。
……これからはじゃんじゃん抜き打ち検査を行うという話だが、果たして効果は出るのか?また来年からはお尻に糞尿バッグをつけた馬車が、ウィーンの新しい観光アトラクションとなるのか、色々と気になるところである。

ちなみに、プーバッグのプー (pooh) は英語のスラングで排泄物という意味であるようだ。しかしこの Pooh-Bag という合成単語は墺製英語なのではないかという気がしてならない。ネット上で色々検索をかけてみたが、馬の pooh-bag で引っかかるのはウィーンの糞尿バッグだけなのである。

=追記=
先日(10月初頭)プーバッグつき馬車の写真を撮ろうとウィーンの旧市街をウロウロしてみたが、一台たりともプーバッグつき馬車を見かけなかった。つまり御者たちは上記のプーバッグ法を全く無視している模様である。プーバッグ法が市議会で可決されるまではメディアが色々それについて報道していたのに、最近はパタリとその報道も止み、どういう取り締りや罰則がなされているのかさっぱりわからない状態。
これが本当の馬の耳に念仏?私は馬に……ではなく、狐につままれた気分。

参考:
Planquadrat für Fiaker / 2003.07.05 / Presse
Kein Pferdeflüsterer / Manfred Seeh / 2003.05.31 / Presse
動物ニュースサイト PROFAUNA.DEプーバッグに関する記事 / 2002.09.23
City-Kaufleute klagen: Beim Steffl stinkt es zum Himmel / 2002.04.09 / Presse

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