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アルフ・ポイヤー (Alf Poier)

日本人にはあまり馴染みがないと思うが、今年の5月24日にラトヴィアのリガでユーロビジョン・ソング・コンテストというものが催された。これはヨーロッパという名前がついているわりに東はロシアから西はトルコやイスラエルまで参加していて、EUよりはよっぽど寛容な催し物で、その年に優勝した国が次のコンテスト開催国になる仕組みだ。
このコンテストでは各国の代表が歌い、それを各国国民が電話投票して順位を競う。(だが自国代表には投票できない決まりになっている。)昔はそれぞれの国の言葉で歌わなくてはいけないというルールがあったそうだが、今はそんなルールもとっぱらわれたため、ほとんどみんな英語で歌っている。オーストリアも毎年参加しているが、全然ダメ。いつも中〜下位あたりをウロウロしている。

それでもユーロビジョン・ソング・コンテストの時期が近づいて来ると、「今年は誰が参加するのか」などと話題にのぼる。で、今回はオーストリア代表を決めるのに予選があった。10組くらいのバンドや歌手をライブで歌わせ、それに視聴者が投票するという形が取られたのだ。
有力候補がいたのかどうかは知らないが、代表は圧倒的多数の票を集めてあっさり決まった。それが、どう見ても予選参加者の数合わせに連れて来られた(と思われる)芸人のアルフ・ポイヤー (Alf Poier) だったのだ。多分彼に投票した視聴者もシャレのつもりだったんだろうが、同じことを考えた人間が多数いた模様である。(私はその予選を見なかったのだが、次の日の新聞記事を読むに非常に独特で奇抜な歌と踊りと服装であったらしい。)
それに驚愕した各メディアは「アルフ・ポイヤーはオーストリアの恥だ」などと扇情的に報道した。が、あとのまつり。予選後のポイヤーはやる気満々で張り切っていた。しかしそのやる気の方向がちょっとズレており、彼は“音楽的なホロコースト” であるコンテストの馬鹿馬鹿しさを知らしめるために参加すると発言していたのだ。

そんなポイヤーが記者会見で語った内容の抜粋:
・ 先っちょに咳止めの錠剤が張りつけてある10mの棒を持ってリガの太陽の下に3時間立ち、もし何をしているのかと尋ねられたら「知らない。どうして僕が何でも知っていなくちゃならないの?」と問い返したい。
・ それからピンクのバナナを手に持ち、それが何かと訊かれたら「何に見えるの?」「ピンクのバナナ」「わかっているんだったら何で僕に訊くのさ?」という会話をしたい。
・ (コンテスト代表に選ばれたにも関わらず、ポイヤーの曲がラジオで全く流されないので)歌を忘れちゃった。新しく歌を覚えないといけない。

この会見に関する新聞の文芸欄のコメントは、「記者会見はシュールレアリスムの様相を呈していた」というものだった。
その後彼はコンテストの開催地に発ったのだが、ウィーンのシュベッヒャート空港では猫のマスクをかぶりインタビューにも変な鳴き声でしか応じない。(またなぜかマネージャーまでインコのマスクを被っていた。)困ったリポーターがポイヤーグループの責任者に「本当にこの人がオーストリアの代表でいいんでしょうか?」なんて本人の前で訊いている始末。
スゴイ奴が出て来た、と私は興奮してしまった。しかし逆に「こんな奴がオーストリアの代表に選ばれるなんて……」と絶望(?)した連中が、ポイヤーに脅迫状を送って来たりもして何かと怖いこともあったらしい。

さらにポイヤーはウィーン語の歌詞の歌をそれをそのまま歌った。それじゃオーストリア人(とバイエルン人)にしか歌の内容がわからないのではと思ったが、そもそもコンテストを馬鹿にするのが目的なので何でもあり(らしい)。これでコンテストでも彼が上位に食い込んだら凄いが、まさかそんな奇跡は起こるまい。大物ではロシア代表としてt.A.t.u.が出たりするし、まずポイヤーは最下位だろうというのが大方の予想であった。
例えばBBCのポイヤーに関するコメントは「今年のコンテストにはは0ポイント候補が1人いる。オーストリアの代表で猫に変装して変な唸り声をたてる芸人、アルフ・ポイヤー」で、風車と熊のぬいぐるみを持ったポイヤーの写真が「オーストリアのジョーカー」と書き添えられてBBCのサイトに載っていた。

しかし何という運命の皮肉であろう、蓋を開けてみれば参加者中唯一0ポイントに終わったのはイギリスの男女ペアの歌手のほうで、ポイヤーは堂々の6位に入賞してしまった。これはオーストリア代表としては1989年以来の快挙だそうで、もう批評家もびっくり。私が応援した甲斐があったというものだ。

散々けなされていたのでどんなものかと期待していたが、ポイヤーの歌とパフォーマンスは素晴らしかった(と思う)。マイクの前に棒立ちになったポイヤーが「ウサギちゃんの鼻は短いの、猫ちゃんの耳は……」とかいうナンセンスソングを無表情に歌う。その後いきなりほのぼのした(?)伴奏がヘビメタ調に変わるのだ。その途端、ポイヤーと後ろで歌っている二人のコーラスガール(ガールとは言うものの、一人は60歳くらいのおばちゃん)が首を振ったり髪を振り乱したりして、暴れ出す。そして再び転調。ほのぼのムードに戻った伴奏に合わせてポイヤーが何事もなかったように歌詞の2番を歌い出す……。
このユーロビジョン・ソング・コンテストに全くそぐわない独特のパフォーマンスが視聴者に受けてしまったらしい。しかし当の本人は1位か最下位を目標にしていたので、6位という結果におかんむり。1位になったトルコのことをこき下ろしたり、相変わらずとぼけた発言を繰り返していた。
だがこの成功を機に本人のやる気(?)も増したようで、来年もユーロビジョン・ソング・コンテストに参加したい旨をコンテストの後に明らかにしていた。「ウド・ユルゲンス(オーストリア代表で60年代だか70年代に唯一ユーロビジョン・ソング・コンテストに優勝したことのある歌手)だって優勝するまでには3年も必要だったんだから、僕も一度で諦めちゃダメだと思う」などと発言していたが、果たして来年のオーストリア代表の座は誰の手に……?
私としては是非是非ポイヤーにまた参加して欲しいが……。

ポイヤー自身のサイトはこちら: http://www.alfpoier.at/
それから上の写真をクリックすると、ポイヤーがコンテストで歌った『人間だから (Weil der Mensch zählt)』という曲が試聴できるページに飛びます。ページの真中当たりの「1. Weil der Mensch z減lt (音符マーク)」と一部文字化けしているタイトルを探してみて下さい。

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(C) Hana 2003