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四旬節 (Fastenzeit / Quadragesima / Carena)

イエスはヨルダン川でヨハネに洗礼を受けた後荒野に向かい、そこで40日間の断食を行った。そこでイエスは様々な悪魔の誘惑を受けながらもそれに打ち勝つのだが、このエピソードにちなんで復活祭の前に断食を信者に義務付けることが325年ニケーアの公会議で決まった。その後西暦600年頃に法王グレゴリウス一世が断食期間を40日間と定めた。その時に、復活祭から数えて6週間遡った日曜日(=現在の四旬節最初の日曜日)に40日間連続の断食が始まることが決められた。しかしその後1091年にベネベント(イタリア中南部の都市)の教会議でイエスの復活を祝うため、各日曜日は断食期間から除外されることとなった。以来正式な四旬節は灰の水曜日から始まり、復活祭直前の聖土曜日に終わることとなっている。

断食中キリスト教徒はワイン、肉、卵、乳製品などを慎まねばならない。(魚は食べてよい。)またこの間十分に食べていいのは1日に1度だけで、あとは腹ごなしに2度何か食べることが許されているのみである。カトリック教会は今日でも18歳から60歳までの全カトリック教徒にこの断食期間を守るよう呼びかけている(=大斎)。魚を食べていいのは魚が血を流さないためで、伝統的には四旬節の間にしん料理がよく食べられる。これは謝肉祭の間に食べ過ぎた体から、にしんが老廃物を効率的に取り除いてくれると信じられていたことが理由のようである。
断食は食の享楽から遠ざかることで精神を清め、集中力を高めて復活祭に備えることにある。その他性的誘惑を退け、沈黙を守ることも奨励されている。

しかし厳密に断食を40日間も行うのはいかにも難しそうである。そう考えたのは私だけでなく中世のカトリック教徒たちも同じであったようだ。そのためこの断食期間を乗り切るため、様々な言い訳(?)が考えられた。例えば中世のバイエルンの修道院では鴨やビーバーも水の中にいるので、魚の仲間(!)として断食中でも食べてよいことになっていたらしい。又現在ドイツ語でモルモットは “Meerschweinchen (海の子豚)” と全く実態とかけ離れた名前で呼ばれているが、これも名前からして断食中に食べてもよい食材であったようだ。
また様々な魚を肉に似せた形で調理することも試みられ、中には本物の肉同然の味をした魚肉ハムやソーセージもあったという。(こうなると断食の意味があるのかどうかもわからなくなってきそうな気がするが……。)
その他新大陸で発見された新しい珍味を断食期間中に食していいものかどうか、わざわざメキシコから司教がバチカンに派遣され、法王ピウス五世直々の判断が仰がれたこともある。その珍味とは飲み物のチョコレートのことで、これを試飲した法王は許可を与え、この問題に決着がついた。しかしグアテマラで液体状のチョコレートから固体で保存のきくチョコレートが作られるようになり、これがイタリア経由でヨーロッパに伝わって以来この問題が再燃した。断食期間中の固形チョコレート賛成派のドミニコ会と反対派のイエズス会が真っ向からぶつかり合ったのだ。この論争には1662年に固形チョコレートが断食用食材と認められることでカタがついたのだが、正式な結論が出るまで実に約50年も時間がかかった。


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