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アム・シュタインホフ教会 (Kirche am Steinhof)

アム・シュタインホフ教会 郵便貯金局に並ぶオットー・ヴァーグナーの代表建築として有名なのがこのアム・シュタインホフ教会である。この教会はウィーンの森の端に1905年から1907年にかけて、当時のニーダーエステライッヒ州精神病療養所の敷地内に建てられた。(昔ウィーンはニーダーエステライッヒ州の州都だったのである。)ヴァーグナーは療養所全体の建物配置などにも関わったが、実際にはこの教会だけが直接彼の手によって建設された。
療養所の建物配置について少し言及すると、広い敷地内の真ん中に劇場や食堂、教会と言った重要な建物が縦に並んでいる。さらに西側には女性棟、東側には男性棟が並んでいた。このため教会の扉も三枚あり、西の扉からは女性が、東の扉からは男性が出入りし、真ん中の扉は特別な行事の時だけ使用されていたそうである。

立方体の箱に丸い銅屋根をかぶせたようなシンプルな形をしたこの白亜の教会は療養所敷地内の一番見晴らしのいい位置にアールヌーヴォー様式で建てられた。(この屋根は元々金メッキをほどこされていたのだが、後にはげてしまった。)教会正面上部、丸屋根の前にはニーダーエステライッヒ州の守護聖人聖レオポルドと聖セヴェリンの像が左右に並び、その下方、入り口の上部にはシムコヴィッツ (Orhmar Schimkowitz) による四体の天使たちが立っている。遠くからでも目立つ美しい外壁は郵便貯金局の壁のように大理石で覆われ、銅のボルトで留められている。

聖水盤 内部に足を踏み入れてみると、まず普通の教会とは全く趣を異にした明るく現代的な内装に驚かされる。それでいて祭壇やステンドグラスを始めとして床や椅子、壁のちょっとした装飾に至るまで見事に統一され、古典的な教会を見慣れた目には新鮮なショックである。実際フランツ・ヨーゼフの後継者で、非常に保守的あったフランツ・フェルディナンドは教会完成の際ヴァーグナーにバロック様式と比較してアム・シュタイン教会を暗に批判したそうである。
この教会は療養所の患者と職員を慰める目的で建設されたため、内部は細部に至るまで様々な工夫が凝らしてある。例えば教会入り口左右に置かれている聖水盤であるが、療養所の患者たちの衛生保持を可能にするため水が流れ出る仕組みとなっている。(普通の聖水盤の中には水が入りっぱなしになっている。)またベンチをよくよく眺めてみると角が全て削られ、万が一患者が教会で倒れるようなことがあっても怪我を最小限に抑える工夫がなされている。
それではまず教会奥の大祭壇から見て行こう。普通ならば大祭壇は東の方向に置かれている。東はキリスト教の聖地、エルサレムの方向で、大祭壇に向かって祈りを捧げると自然と聖地エルサレムの方向に向くことになるのである。だがこの教会の大祭壇は北側に作られている。これは精神を病んでいる人々が大祭壇の正面に立った際、逆光に向かわなくても済むようにとの意図から光のささない北側に大祭壇が置かれたためである。また、教会入り口から大祭壇にかけては非常に緩い傾斜がつけられており、入り口部分は26cmだけ上がった位置にある。これはベンチに座っている人々の頭越しに丁度よく大祭壇が見られるだけの高低差が計算してつけられているためである。 祭壇 さらに内陣と長堂の境には患者が内陣へと立ち入らないように低い大理石づくりの柵が設けられている。この柵の向こうにある天使をあしらった金色の大祭壇は、ヴァーグナーの設計に基づいてシムコヴィッツによって作られた。大祭壇画は大きなモザイク画(約4トンの重さ)で、一番上に立つキリストを始めとして心の平安や健康などを司る救難聖人の絵が描かれている。この大祭壇の左手前に説教壇があるが、説教壇に直接上がる階段がない。これは大祭壇の左横の扉から香具室を通って説教壇へと上がる仕組みになっているためである。この工夫も神父の説教中に患者が説教壇へと上がって説教の邪魔をしないためのものである。また香具室の奥にはトイレもあり、礼拝途中にわざわざ教会から出なくても用を足すことができる。(ただこのトイレは平凡なトイレで、特にアールヌーヴォー風というわけでもない。このトイレよりグラーベンの泉のわきのトイレのほうがずっと芸術的なトイレである。)さらに香具室の反対側の小部屋は医務室となっており、患者の容態急変などにも速やかに対応できる用意がしてある。
祭壇に向かって左右の、つまり東西の窓には美しいステンドグラスはめ込んであり、それぞれ7人の聖人たちがあしらわれている。東には慈悲深い7人の聖職の、西には慈悲深い7人の俗世の聖人たちが立ち、祭壇の方向を見つめている。 大祭壇 このステンドグラスはモーザー (Kolo Moser) によって作られた傑作で、ステンドグラスの後は大祭壇画も彼が手がける予定であった。しかし彼はプロテスタントの女性と結婚してしまったためにステンドグラス完成後は制作から外されてしまった。これらのステンドグラスの下方にはそれぞれ扉があるが、これは何か患者にあった際に礼拝途中でもすぐ外に出られるようにとの配慮から作られた。(ヴァーグナーは本来この教会をプロテスタントやユダヤ教徒も出入りできる開かれた教会としたかったようである。しかし20世紀初頭にはまだそういった思想は時期尚早で、結局ヴァーグナーのこの希望は実現されなかった。)
大祭壇の向かい側にあるパイプオルガンもアールヌーヴォー様式のオルガンで、ウィーンには三台しかないという非常に珍しい一品である。また教会内を照らす美しいランプや上記のベンチなどの内装備品はウィーン工房でアム・シュタインホフ教会用にとオリジナルに制作された。教会制作の材料はガラス、大理石、陶器、木などで、耐性があり簡単に洗浄できるという実用的な理由から恣意的に選ばれた。大祭壇画も同様の理由からモザイク画となったそうである。
冬の寒さのため、11月から4月の復活祭までの期間この教会は閉鎖され礼拝は行われない。だが2001年から2005年にかけて全面的な修復工事が行われ、教会内部にも暖房が据え付けられる予定である。 その後は一年中礼拝が行われる。またこの工事で教会の丸屋根にも再び金メッキがほどこされる予定で、間もなくヴァーグナーが建設した当時の金屋根の教会が見られることになる。


◆観光情報◆
屋根の金メッキ開始 内部見学は毎週土曜日の午後3時からのみ可能。(この内部見学は冬も行われている。)入場料は一人55シリングである。ただ説明はドイツ語でのみ行われ、しかもこれが1時間ほど続く。そのため内部だけ見学したい人は4時頃(あるいは3時50分頃)教会に入り、説明の終了を待ってあちこち見て回ればいいだろう。説明の後には上述したトイレに入って用を足したり、説教壇に上がることも可能である。
また療養所敷地内に入り、教会の外側だけを見て回るのはいつでも可能である。

場所:14区のバウムガルトナー・ホーエ1番地 (Baumgartner Hoehe)。
1区のドクター・カール・レンナー・リンク (Dr. Karl Renner Ring;国会議事堂の隣の駅) から48Aのバスに20分ほど乗り、精神病療養所前 (Psychiatrisches Krankenhaus und Pulmologisches Zentrum) で下車。(これは進行方向右側に見える大きな建物なので見逃す心配はない。)教会は療養所敷地内のてっぺんに立っている。


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